「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」

   最終話 それぞれの場所へ

 その建築中のマンションは、あの時とくらべて、幾分、朽ちが目立ち始めていたものの、そのままの場所に、今も建っていた。恵理子がその最上階の部屋にたどり着いたとき、少女は、いずれベランダへ通じる窓になっていただろう、南側の大きな出口の前に、ただ、黙って座り、ぼんやりと、外を眺めていた。
「やっぱり、ここか・・・」恵理子が息を切らしながらつぶやいた。少女は、黙って外を見ている。
「ココ・・・」少女は振り向かずに言った「ココ、まだ残っていたんだね・・・」
「ああ、誰かさんがとんでもないことしてくれちゃったからな、売れるメドが立たなくなったらしくて、工事は中止だ。」
「わるいこと、しちゃったね・・・」
「ああ」
夕刻の乾いた風が、ガラスのない窓から吹き込んできて、2人の間を通り抜ける。
「なんで・・・、なんでウソをついたんだ・・・」
静かに問い掛ける恵理子、だが、真白は反応を示さない。
「真白! 質問に答えろ! なんでウソをついた!」
いつのまにか、恵理子の声に涙が混ざっている。
「私・・・」真白は外を眺めたまま、今にも風に消えそうな声でつぶやく。
「私、そんなつもりはなかったんだけど・・・」
「でも結局、私、また・・・、恵理子から大事なもの、奪っちゃったね・・・」
恵理子もまた、壁にもたれ、外を眺めながら聞いていた。
「最初は・・・真白、そして・・・今回は、勇輝・・・」
「また、お別れだね・・・」
そう言う真白の目からも、涙がこぼれている。
「でも・・・、でも私、一番大事なことは・・・、ウソついてない」
「どうして、お前、この街に来たんだ?」
「恵理子に、会いにきたんだよ」
涙でグシャグシャの2人に、かすかに笑みが戻った。

「あたしさぁ・・・」「何?」真白が訊きかえす。
「あたし・・・、真白に、奪われたものなんか、ひとつもない・・・」
「むしろ・・・逆だよ、あたし、真白から、いろんなもの、もらった・・・」
「お別れ?そんなことないよ。あたし、真白とお別れなんか、1度もしてない」
「勇輝だってそうだよ、勇輝とも、あたしお別れなんか、するつもりないよ」
「だって、ほら!」
そう言って恵理子は、勇輝の手からステッキを奪い、それを捻って見せた。ステッキは真ん中から折れて、鮮やかなヒマワリの花が飛び出した。
「な?」
「うん・・・そうだね」真白が、ゆっくりとヒマワリに手を伸ばす。
「そうだよ!」恵理子がその花で、真白の顔をくすぐって見せた。
「恵理子・・・ステッキ、いつの間に覚えたの・・・?」
泣きながら寄り添う2つの影が、徐々に黄色さを増す光の中で、いつまでも揺れていた。

「なあ、やっぱりいくのか・・・」
「うん、だって」真白は立ち上がり、無理に笑ってみせる「仕掛けがバレちゃったら、マジシャンは失格だからね」
その笑顔が痛々しくて、乾いていたはずの恵理子の目にも、再び涙が溢れ出す。
「おい、恵理子、泣くなよ、俺の最後のマジックだ、ちゃんと見ておけよ」
「ああ」そうは言われても、涙など、止められるはずもない。だが、それでも、恵理子はしっかりと目を開いた。真白がマジックボックスを見せる、タネも仕掛けもございませんとばかり、いつもの得意げな表情だ。その箱に、黒い大きな布をかぶせ、恵理子を見つめる。
「それでは皆様、ご一緒におねがいします」真白は、満面の笑みを浮かべる。
声にはならなかったが、その口が、確かに「バイバイ」と動いた。
「1・2・3!」2人は、精一杯笑顔で声を揃えた。真白が大きな動作で布を払い除けた瞬間、箱の中から、1羽の真っ白い鳩が飛び出し、恵理子めがけで飛びかかる。
「うわっ!」思わず恵理子がしりもちをつくと、鳩は恵理子の上をくるりと旋回し、それから、窓の向こうへ飛び出していった。
そして気が付くともう、そこに、真白の姿はなかった。恵理子は、飛び去ったその鳩が見えなくなっても、いつまでも、いつまでも、窓の外を見つめていた。

Ending Theme
「Hello Another Way −それぞれの場所−」
Words:Tomoko Kawase Music:Shunsaku Okuda
the brilliant green/2000

yesterday, 月光の彼方に浮かれて巻かれていたっけ oh...
say hello, それでも今は前へと進もう
突然 例えひとりぼっちになってしまっても


公園を歩く、3人の姿があった。
悠、藍、そして、悠に抱かれた朱二が、楽しそうにはしゃいでいる。
「あ」朱二の目が、何かを捉え、声をあげる。
藍と悠も、その目線の先を追った。
1羽の真っ白い鳥が、空を舞い、彼らの上で旋回する。
そしてまた、どこかへ飛び去っていった。
その行方を、なぜか3人とも、目が離せず、いつまでも追っていた。

let's sing a song! "hello! another way!"
あなたの空 いつの日か 例え離れても
愛してるわ big kiss for my friends! いつも味方よ


「安奈ちゃ〜ん、そこから、ず〜っと、ゆっくり顔をあげて、そうそう!」
カメラマンの注文に従い、様々にポーズを変えながら、ゆっくりと上を向く。
上空に、1羽の真っ白い鳥の姿が見える。安奈はそれを、自然に目で追った。
その表情に、思わずカメラマンがシャッターを忘れ、それから慌てて1枚だけ切った。
「どした? 今、すっごい、いい顔した・・・」宮部が驚いて声をかける。
「よし、じゃあ、室内に移動!」カメラマンの号令と同時に、スタッフが慌しく動く。
「安奈ぁ〜、そりゃないよォ〜」まだ空を見上げている安奈に、
背の低いヘアメイクが飛び跳ねながら、不満そうな声をあげた。

yeah, sing a song! "hello another life!"
いつかは旅立っていく それぞれの場所へ
でも今は側にいて・・・ 廻りくるその時まで


光文館女子学園運動場、さっきから、空ばかり見ている少女がいる。
彼女の目線の先には、1羽の真っ白い鳥が、優雅に空を舞っていた。
「ポッポ、何、ぼ〜っとしてんのよ 順番だよ!」
笑いながら背中をつつく奈美に促され、小鳩は我に帰った。
その鳥の姿を、頭に焼き付ける。今度こそ飛べるような気がした。
砂場に向かって、助走をつける、心の中で両手を広げ、大空を舞うイメージ。
思いっきり踏み切り、そして着地、4メートル超、会心のジャンプだ。だが・・・
苦笑いの教官が赤い旗を振っている。
「残念賞〜♪」笑い転げている知佳に、ベッと舌をだして、
小鳩はまた、空を見上げながら、スタート地点へ駆け戻っていった。

let's sing a song! "hello another way!"
手を伸ばして 夢見るの 今は遠くても
信じたい きっといつかは かなうと決めているから


恵理子は、いつものクセで、朝の5時に目が覚めた。
1人になってみると、6畳1間でも、なにか広く感じる。
と、枕の下に、何かが入っている、黄色い水玉のナイトキャップ。
「あのバカ・・・」恵理子は笑って、それをミッフィーのぬいぐるみに被せた。
「さ、今日も頑張るか!」恵理子が大きく伸びをする。
窓をあけると、朝を喜ぶ鳥たちの声が、うるさいくらいに飛び込んできた。

let's sing a song! "hello another way!"
今ここまで 来れたのは あなたがいたから
逢えてよかった thank you for my friends! いつも味方よ

yeah, sing a song! "hello another life!"
いつかは旅立っていく それぞれの場所へ
でも今は側にいて 新しい朝が来るまで


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