|
「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」 15 星空の出会い(1) 「みなさ〜ん、元気ですかぁ〜!」「は〜い!」 「忘れ物は、ありませんかぁ〜!」「は〜い!」 「隣のお友達は、ちゃんと乗ってますかぁ〜!」「は〜い!」 「それでは、しゅっぱあ〜つ!」「オー!」 少女たちの掛け声に合わせて、苦笑いの運転手が、サイドブレーキを落とす。バスは午後4時30分、光文館女子学園正門前を出発した。ここから目的地の河口湖までは、約3時間、以前は一泊二日で行われていたこの合宿も、天文観測は天候に左右されやすいとの理由により、4年前からは、二泊二日という強行スケジュールに変わっていた。 「ねえ、ポッポ、結局、ママのOKは出たの?」 2人掛けの席に、小鳩と奈美、その前の席から後ろ向きに身を乗り出して、知佳が話し掛ける。 「う〜ん、出たような、出ないような・・・」 「でもさあ、バスに乗っちゃえば、こっちの勝ちだよね」「うん・・・」奈美が小鳩の頭を叩くが、小鳩はなぜだか、やたらと緊張している。 「あ、あのね、2人にお願いがあるんだけど・・・」「?」 「着くまで、着くまででいいから、私にずっと話し掛けていてくれない? 私・・・バス、苦手だから・・・」 恥ずかしそうに言う小鳩に、2人は思わず吹き出した。「OK!」と知佳が笑顔で答える。だが・・・ 「すいませ〜ん、このコ何か酔いやすいみたいなんで、席、前の方に代えてもらえますかぁ〜!」「知佳!」 小鳩が知佳を押さえつけるが、すでに遅かった、車内が大爆笑に包まれる。「お〜い、鈴丘、ココ空いてるぞ〜」中田に声をかけられても、小鳩は顔を上げることもできなかった。満場の拍手の中、小鳩が真っ赤になって、うつむいたまま通路を歩いてゆく、その後ろを、知佳と奈美が、両手を上げて「やあ、どうもどうも」歓声に応えながら続いた。そのおかげかどうかは知らないが、一行はなにごともなく、河口湖畔の天文台に到着した。 金曜の夜に出発する理由は、天候不順に備えた予備日だと説明したが、実は1日目のスケジュールに、天体観測は含まれていない。結局は、2日目の自由時間を捻出するための、先輩たちの作戦であり、それが恒例になってしまったらしい。着いていきなり、夕食と親睦会、ここで、国見台高校の生徒とも合流する。それからは、各自部屋に戻って入浴、そして、就寝となる。小鳩は母親に、男子と宿舎は別だと説明していたが、厳密に言えばこの部分は誤りで、正しくは、一階に男子、二階に女子ということになっていた。部屋は、大体7,8人で共同で使うことになっていて、小鳩たち1年生全員で、一部屋が割り当てられていた。初日ということもあり、大半の部屋では、夜遅くまで、大騒ぎが続いていたのだが、それでも時計が12時を回る頃になると、さすがに、おおよそ寝静まっていた。おそらく、この時間に起きているのは、教師控え室で酒を飲んでいる中田と佐野の両名、それから、なぜか寝つけない、小鳩くらいではなかっただろうか。 小鳩は、天文台の屋上に出てきていた。さすがにこの時間、しかも山の中ということもあり、体が震えるほど冷え込んでくる。小鳩も、パジャマの上からジャージ、更にその上からジャンパーという格好だったが、それでもじっとしていると、体の芯まで、寒さが伝わってくる。だが、見上げると、そこは東京では絶対にお目にかかれない、満天の星空、思わず、寒さを忘れて、両手を広げたくなる。目の中には、星の瞬きしか映らない、あらゆる距離感が意味を無くし、やがてその星々の引力に吸い込まれるように、体が浮き上がるような感覚を覚える。 「だれかいるのか?」突然、背後でドアの開く音がして、小鳩は一瞬のうちに、現実へ引き戻された。慌てたように振り返った小鳩と、その人物の目が合った。 彼は、国見台高校の生徒、そして、そこの天文部の部長でもあった。 「こんばんは」「こんばんは・・・」彼の挨拶に、小鳩もぎこちなく返す。 「僕のこと、分かる?」「あ、はい・・・部長さんですよね、えっと、高木さん・・・」 「ありがと、覚えててくれて、高木光一郎(たかぎ・こういちろう)です、よろしく」 「あ、はい、よろしくおねがいします」深々と頭を下げる小鳩を、光一郎は笑って見ている。 「えっと、君は・・・」「はい、鈴丘小鳩、光文館の1年生です」 「すず・・・ああ、うん、覚えてるよ、確かポッポって呼ばれてた子だよね」「はい!」 覚えていてくれたことがうれしかった、小鳩の顔が、自然と笑顔になる。 「ねえ、こんな時間に何してたの?」 「うん、何だか寝付けなくて、先輩は?」 「僕も同じようなものかな、だいたいさあ、この合宿、変だよ、せっかく来ておいて、星も見ないで寝ちゃうなんてさ」「そうですよね・・・」2人は顔を見合わせて笑い、「座ろっか」光一郎に促がされて、2人はベンチに移動した。 「鈴丘さんは・・・」「ポッポでいいですよ」小鳩に言われると、光一郎は照れたように、「ポッポは」と言い直した。「星は、好き?」 「はい、だから天文部に入ったんですよ」「そりゃそうだな・・・」光一郎は苦笑した。 「何か、わかる星座とか、ある?」 「いっぱい勉強してきたつもりなんですけど、いざこうして空を見上げても、なんにもわかんないんですよね」「ま、そういうものだよな」 「わかるのは・・・北斗七星くらいかなあ」 「それだけわかれば十分だよ」そういって、光一郎はその北斗七星を指差した。 つづく |