「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」

   18 約束

 勇輝の外出が許可されて(?)そろそろ2週間が経とうとしていた。
「この街もちっちゃいからな、あんまり人が集まらなくなってきちゃって」
勇輝が台所で夕食の準備をしている。最近では、電車に乗って、近隣の街へも出かけているらしい。
「そのちっちゃい街に好きこのんで来たのは、お前だろ」
「・・・まあな」
「なあ、お前、修行に出てきて、最初に来たのがここだったんだろ?」「ああ」
「どうしてなんだ? こんな、快速も止まんないような街にさ」
「う〜ん、どうしてなんだろ・・・」勇輝は少し考えて、それからポンと手を叩いた「こういうのはどうかな?」
「何?」不思議そうな顔をする恵理子に、勇輝が鋭い目線を飛ばす「君に会いにきたのさ!」
「・・・・・・」「・・・・・・」寒かったようだ。
「人が集まらないのはさ、お前の芸が飽きられてきちゃったからじゃないのか?」
「うっわ、キビシイなあ」
「もっとさ、こう毎度毎度、斬新なネタをパーンと!」
「無茶なこというなよ、新しい技開発するのに、どれだけかかると思ってんだよ」
「うん、まあ、そりゃわかるけどな、でも、お前言ってたじゃないか、自分を安売りしたくないって、あたし、感動したんだぜ」
「・・・ああ、確かに言った、でも最近はさ、ちょっと考え方も変わってきたんだ、何ていうのか、まず、たくさんの人に見てもらうこと、そこからじゃないと、何も始まらないような気がするんだ」
「・・・それ、本当にそうだって言い切れるか?」「!?」
「初めて見る人はさ、そりゃ驚くよ、どんなネタでもな、でも、それってちょっとズルくないか?」
「あたしさあ、ちょっと気になってるんだよ、お前、最近毎日、夕飯の材料買ってくるよな、あたしもさ、最初は、ああ、今日もうまくいったんだなって喜んでた」
「・・・・・・」
「でも、お前、本当に毎日毎日、そんなに上手くいってるのか? 不満な時でも、とりあえずお金をもらったりしてないか? もしかして、手ぶらで帰る事を、恥ずかしいとか、申し訳ないとか思ってないか?」
「いや・・・そんなことは・・・」「本当にそうか?」
恵理子の厳しい言葉に、勇輝は黙り込んでしまった。
「なあ、もしかして、あたしと暮らしてることは、お前にとって、マイナスなんじゃないか?」
「そんなことない!」「だったら!」
「だったら、ダメだった日は、手ぶらで帰ってこいよ! それでいいよ! 怒ったりしないから、でも、その日はお前、晩飯抜きだぞ、それでいいだろ」
「あたしさあ、最初に会ったときの、お前のその、夢に向かうまっすぐな目、忘れて欲しくないんだよ、お前が堕落しちまうのを、あたしのせいだなんて言われたくない、それがお前の為になるなら、お前なんか今すぐ追い出してやるよ!」
「恵理子・・・」
恵理子は顔を紅潮させ、息を切らせている。いつの間にか料理の手を止めていた勇輝と目が合うと、その目線を嫌がるように、くるりと後ろを向いた。
「でもよお、追い出せるわけないじゃないか・・・ だって、勇輝がいてくれると、あたしは楽しいし、嬉しいし、心強いし元気になれるし、勇輝だってそうだろ? それに、だって、勇輝はあたしの彼氏なんだぞ、藍たちだって認めてくれたんだ」
恵理子はもう一度勇輝の方を振り返った。今にも泣き出しそうな目だ。
「あたし、勇輝が好きなんだ! 追い出せるわけないじゃないか!」
勇輝は、まるで母親に説教をされている子供のように、ただうつむいて聞いていた。
「恵理子・・・ごめん・・・」そう言って恵理子の肩に、勇輝が手を乗せる。恵理子はそれを嫌がるように振り払った。
「恵理子の言う通りだ・・・ 俺、ちょっとここの生活に甘えていた」
「でも、遠征は続けるよ、大勢の人に見てもらいたいってのは、本当だから」
「ああ・・・」恵理子もうなずく。
「俺、約束する、ダメだった日は、晩飯抜き、それから、毎日1つ、必ずネタを変えること」
「そりゃ、毎日新ネタってわけにはいかないけど、ボールの数でも、ハンカチの色でも、とにかく、昨日までと同じことは、絶対にしない、これだけは絶対に約束するから」
「うん」恵理子が、小さく、だが、しっかりとうなずいた。
勇輝が恵理子に、そっと口づける。そして、約束するよ、ともう一度繰り返した。
「さて、じゃあメシにするか、今日のはうまいぞォ〜♪」
「おまえさあ」恵理子があきれたように言う「もう少し余韻とかないのか?コノヤロ!」立ち上がろうとする勇輝に、恵理子が後ろから抱きついた。
「おっと、ん?恵理子、もしかして初めてか?」「バッ、バカなこと言うなよ!」
「そうかあ、恵理子のファースト、奪っちゃったかあ〜」「違うって言ってんだろ!」
「でも、俺はファーストだぜ」勇輝が子供っぽく笑う、その表情にドキッとして、恵理子は抱きついていた手を放して、少し遠ざかる。
「・・・勇輝くん、ファーストのご感想は?」「う〜ん、ちょっと焼肉の匂いがしたな」
「てめえ! セカンドはこっちから奪ってやる!」「おわっ!」

   つづく

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