「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」

   22 決戦は日曜日

 その日の夜、小鳩は、どこかそわそわしていた。ロッカーの洋服を全部取り出し、それをカーテンレールにぶら下げる。しばらくそれを眺めて、と思ったら今度は、ハンドバッグの中をのぞいて、中身をひとつひとつ確かめる。今度は手帳を開き、突然ニヤけたかと思えば、そのままベッドに飛び乗り、枕を抱えて、その笑いを押し殺す。とにかく、何やら興奮していることは間違いないようだ。そこに入浴を終えた奈美が戻ってきた。
「あんた、何してんの?」奈美にそう声を掛けられた時、小鳩は、まるでピアノの発表会にでも使うような、淡いピンクのワンピースを身にまとい、鏡の前でクルクルと回っていた。「キャ!」小鳩は飛び上がり、慌てて全てを片付けようとするが、何から手を付けていいものかわからない。
「ふ〜ん」奈美は小鳩の全身を見渡し、それから、何かピンと来たようだ。
「あっ、ダメ!」小鳩と競争になったが、奈美が一足早く、机の上に投げ出されていた手帳を奪い取った。
「え〜、なになに、日曜日、高木先輩、駅前ロータリー、13時・・・」「あの、ね・・・」
「デートだ! そうでしょ」「あ・・・、うん・・・」
「やっるなあ〜、おっと、これは一大事だ、ねえ、知佳!ちょっと聞いて、このコったらねえ〜」「あ、ちょっと!ねえ」
小鳩が止めるのも聞かず、奈美は知佳を呼ぶために、部屋を出て行った。まもなく、
「小鳩ちゃん!デートなんて、ママはゆるしませんよ!」知佳が窓から乗り込んできた。普通に廊下から来た方が早いと思うのだが。ともあれ、メンバーが揃い、緊急作戦会議が始まった。

「ポッポさあ、持ってる服、これで全部?」「うん・・・」
「どれがいいかな?」「なんかさあ、いまいちどれも少女趣味なのよねえ」
「ねえ、私の服、貸してあげようか?」「え〜、知佳の服なんか、大っきくて着れないよぉ〜」
「それもそうか、じゃ、わかった、奈美、あんた持ってる服、全部出しな」
「え〜」「ほら、文句言わない!ポッポの晴れ舞台なんだから」
奈美が、しぶしぶロッカーを開く、そのひとつひとつを小鳩にあてがい、その中から、2つ3つに絞って、小鳩に試させる。
「これは?」小鳩が訊く。
「ん、なかなか、ちょっと横向いてみて」「どうだろね」「何か違うかなあ」「次行ってみようか」
「これは?」再び小鳩が訊く。
「アッハハ、これはねえ〜」「何か服に着せられてるって感じよね」言いたい放題の2人に小鳩は不満そうだ。
一通り試してみたのだが、どうもピンと来るものがない。
「あんたホントに、スタイリスト泣かせよねえ・・・」
「もういい!私、制服で行く・・・」「まあまあ^^」小鳩はすっかりいじけている。
「ほら、さっきのTシャツ、あれで行こうよ、あと、このロングスカートでしょ、で、奈美のGジャンを合わせて・・・」
「ほら、カワイイ」「ホント?」
「ホントだよ、ねえ、奈美?」「うん、なかなかいいんじゃない」
「さて、服は決まり! あとは・・・」奈美が嬉しそうに机の引き出しを開ける。
「これでしょ」そう言って、小さなリップスティックを持ち出してきた。
「えっ、ダメだよ、そんなの・・・」「ポッポさあ、あんた基本的に子供っぽいのよ、もっとこう、大人の魅力? そこで迫んなきゃ嫌われちゃうよ」
「だからって・・・」「ああ、もう、ホラ動かない!変なところに付いちゃうよ」そう言いながら、奈美がそれを小鳩の唇に塗っていく。
「できた! ポッポ、ちょっと鏡見といで」うん、と小鳩が立ち上がる。我ながら、ちょっと大人っぽいような気がして、思わずニヤけてしまう。
「どう? ねえ、似合ってる?」そう言って振り向いた、だが、2人は笑い転げていた。
「・・・ねえ、ひょっとして、楽しんでない?」「うん、楽しいよぉ〜」2人はまだ笑っている。
「悪い悪い、今のは冗談、さて、あとはもう大丈夫かな」
「ねえ、ところでポッポさあ、明日は、どこに行くの?」
「えとね、映画に行くの、シネマスクエア」「シネマスクエアねえ、今、何やってたっけ?」
「さあ、私もわかんないんだけど、チケットがあるからって」「ふ〜ん」
「待ち合わせが1時で、映画を見て・・・、いや〜ん、門限までまだ時間があるぅ〜」
「何バカなこと言ってんの、それだけよ、さっさと帰ってくるからね」
「え〜、今どきねえ〜」「そんな男、いないよね〜」
「そんなことあるわけないじゃない!」「でも、食事くらいおごらせないとねえ」
「食事・・・ああ、なんだ、食事かぁ」ホッとしたような表情を浮かべる小鳩、だが、それを奈美は見逃さなかった「あんた、何か勘違いした?」
その勘違いは図星だったようで、小鳩は真っ赤になっている。
「じゃあ、勘違いついでに、コレ、あげる」そういって、奈美が小鳩に何か投げてよこした。なんだろう、と受け取った小鳩、だが、数秒後、それがコンドームだとわかると、キャっと飛び退いて、それを払い除けた。
「なんでこんなもの持ってるのよぉ、あたし、こんなの、ダメだからね」
「バーカ、あんたが使うんじゃないわよ」「そういう意味じゃなくって!」
だが、そこで奈美と知佳は、急に真顔になった。それを見て、小鳩の顔からも笑みが消える。
「いい、ポッポ、こんなもの、絶対に使っちゃダメ、ポッポが好きだって言うなら、それを止める権利は私たちにはないけど、でも、私、まだあの高木先輩、認めたわけじゃないからね」「知佳・・・」
「でも、どうしてもって場合、今度は絶対に使うこと、それを出すタイミングが難しいんだけどね、覚悟を決めたら、すぐに出す、恥ずかしがって、最後まで出さなかったりすると、いい、困るのは女の方なんだからね」「奈美・・・」
あれだけ楽しみにしていた日曜日、だが小鳩は、なぜか急に怖くなってきてしまった。
「何、心配してんのよ、大丈夫! 映画見て、ゴハンでもおごってもらって、それで帰ってきな」
「門限遅れたら、携帯鳴らしなよ、助けに行ってあげるからね」
「・・・うん、ありがとう」小鳩に少しだけ、笑顔が戻った。「デートってのは、大変なことなんだね」
「なに言ってんだよ、このコは・・・」2人が苦笑する。2人に交互に頭をつつかれると、少しだけ勇気が湧いてきたような気がした。
「じゃ、私帰るね、ポッポ、Good Luck!」そういって知佳は、窓から帰っていった。何度も言うようだが、廊下から帰ったほうが早いと思う。

   つづく

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