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「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」 25 再会!!(3) 「あなたが、デビューしたのは、いつですか?」 「昨年の春、ちょうど1年前になります」 「その、きっかけは?」 「友だちの紹介で、今のマネージャーである、宮部さんに会ったのが最初です」 2人の会話は、まるで、裁判のようだ。 「あなたの、その、援助交際のことは、彼にいつ、話したのですか?」 「2回目に会った時です、その時、提出した身上書に、そう書きました」 「彼は、どういう反応を示しましたか?」 「上司に相談する、すぐに返事はできないと」 「なるほど・・・」それから、紘毅は、その目線を宮部に移す。「では、宮部さんにお伺いします」 「彼女に前科がある、それを知りながら、彼女と契約したのは、なぜですか?」 「ちょっと待ってください」宮部がきつい調子で遮る「彼女が受けたのは、あくまで保護観察処分です、前科という表現は適当ではありません、訂正してください」 だが、紘毅に、ひるむ様子はなかった。 「法律的には、確かにそうです。ですが、彼女が今就いているのは、極めて公然性の高い、特殊な職業です。このような事実が公表された場合、世間的な評価は、前科と同等であると考えられます」 「それを公表しようとしているのは、あなた方ではないですか!」宮部の表情は、明らかに、怒りに満ちていた。「少年犯罪の当該者を特定するような記事を掲載することは、少年法で禁じられているはずです!」 「しかし、彼女をこのような職業に就かせれば、いずれ事実が明らかになることは時間の問題です。その覚悟も責任ももたずに、彼女を公衆に晒したのですか? しかも今回、私どもは、まだ、公表したわけではありません。その公表以前に、彼女は先ほど、自ら認めたわけですから、これは、彼女自身の口から公表されたということになります」 そこまで言われて、宮部には返す言葉がなかった。ただ唇を噛んで、悔しそうに紘毅をにらみつける。その表情を見てとって、紘毅は、もう一度安奈に向き直った。 「私の質問には、お答えいただけなかったようですが、まあ、いいでしょう。さて、では、再び安奈さんに伺います、あなたは、その援助交際において、どのくらいの人と、関係しましたか?」 「よくは、覚えていません、少なくとも、20人以上は・・・」 「ここに当時の新聞を用意させていただきました。これによりますと、あなたはこの援助交際を、恋人に強要されていたとあります。氏名こそ、書かれていませんが、この記事が、あなたのことであることは、間違いありませんか?」 「はい・・・、間違いありません」 「あなたは、その援助交際で得たお金を、彼に貢いでいたわけですか?」 「貢いでいた・・・確かに、私はそれで得たお金を、全額、彼に渡していました」 「全額、ですか?」「はい」 「そのお金を、彼は何に使っていたか、知っていますか?」 「彼は、全て貯金してあると言っていました。このお金は、僕らには必要の無いお金だからと」 「その日会ったばかりの人と、お金で愛のないセックスをする、このことに関して、あなたは当時、どう思っていたのですか?」 「愛のない・・・、確かにそうかもしれません、でも・・・」 「でも・・・?」 「でも、愛はあったんです!」突然、安奈が机を両手で叩き、イスから立ち上がった。 「愛のないセックス、あなたはよく、そんなことが言えますね、私は彼を、紘毅を、心から愛していたんですよ、そして彼も、私を心底、愛してくれていたんです!」 「愛の無い、そうですよ、お金で女を抱くような輩に、私は愛なんて求めていませんよ、もし仮にあったとしても、私の心は、彼への愛で満たされていたんです、それが全てなんです、他の愛なんて、入り込む余地なんかないんです!」 場内が再びどよめき始める。宮部が何か言おうとするが、声にならなかった。 「そんなことを要求する彼が、本当にあなたのことを愛していたと、なぜ、断言できるんですか?」 「なぜ、断言できないんですか、あなたは本当に、心から人を愛したことがあるんですか? ありますよね、だったらわかるでしょう? 私がどんな思いで、あなたの指示に従っていたのか」 「彼は言いました、人間は、他の畜生どもとは違う、真に万物の霊長たる人間であるならば、僕らは肉体から遠いところで結ばれるべきだと」 「私は、言われるままに、いろんな男に抱かれた。悲しみも喜びも、一切の感情を捨てて、人形のように弄ばれた。私は、心の中で、彼らを見下していた、私は、お金を出してまで体を求めるような、下劣で猥褻なコイツらとは違うんだと」 「そして私は、その体の全てを失う、そんな私を、あなたはいつも、きつく抱きしめてくれた、それだけで、私はすぐに満たされた。失われた体の代わりに、あなたの心が、あなたへの思いが、私の全てを支配していった」 「おい・・・安奈」宮部に袖を引っ張られ、安奈は始めて、自分が立ち上がっていることに気がついた。だが、その手を振り払い、安奈はさらに続ける。 「だけど私は、どうしてもあなたと同じにはなれない、それがたまらなく苦しかった。あなたは一度だって、私を抱こうとはしなかった。体を失い、心が満たされ、でも、それでもどこかに残る私の体が、あなたの体を必死に求めていた」 「もっとあなたに近づきたくて、私は、毎日のように、売春を繰り返した。強姦でも、乱交でも、方法なんて、何でもよかった。あなたに命じられなくても、私は自ら、相手を探した。辛ければ辛いほどよかった、やさしさなんて、必要なかった」 そこまで一気にまくし立て、それから、ふっと糸が切れたように、声のトーンが落ちた。 「結局、私には、あなたのようになることはできなかった。私は、限界だった。ある時、私は、その一夜限りの相手に、全てを話したの。彼は、私の話を、涙を流して聞いてくれた。そして彼は、私を警察に連れて行ってくれた」 安奈の頬に、涙が伝った。静まり返った場内が、紘毅の次の言葉を待っていた。だが、悲しそうな目で安奈を見つめていた紘毅は、微動だにしなかった。周囲の目線が、彼に集まった、それに気付いて、紘毅は冷静を装うかのように大きく咳払いをして、言葉を続けた。 「・・・・・・それが、補導のきっかけだったわけですか」静かに語る紘毅に、安奈がゆっくりとうなずいた。 宮部も涙ぐんで、それでもまっすぐに、紘毅を睨みつけていた。空調の止められた室内は、空気がまるで水のように重たさを湛え、すべての人を、その場に縛りつけていた。永遠の沈黙、だがやがて、紘毅がその場から逃げ出すかのように、ゆっくりと、口を開いた。 つづく |