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「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」 29 ドキドキ(3) 2人は、公園のベンチにいた。何か話そうとするのだが、息が切れて、言葉が出てこない。上を向いて、笑いながら口で息をしている2人、その表情は、まるで長距離走を走り終わった後のような、達成感と虚脱感に満ちていた。 「何か、正義の味方みたい」小鳩が楽しそうに言う。 「かっこよかっただろ?」まだ息が切れているが、つられて、勇輝も笑顔になる。 「おかげで、自慢の一張羅が真っ白だよ・・・」勇輝がタキシードを必死にはたいているが、落ちる気配はない。 「あ、ねえ、クリーニング代、私が払うからね」 「ありがと、そうしてもらえると助かるよ」 「ねえ、どうしてわかったの? あそこに私がいるって」 「ん? ああ、ポッポがさ、入っていくのが見えたんだよ」勇輝が、ベンチに深く座りなおす「変な男に抱かれてさ」 「変なって、失礼なコト言うなあ」小鳩がちょっとふくれて見せる。 「それに、あんな乱暴に乗り込んできちゃってさ、もし私たちがラブラブだったらどうするのよ」 「う〜ん」勇輝は、少し考えて「何か、嫌な予感がしたんだよね」 「ほら、ポッポ、アイツの右側を歩いていただろ、あれが気になったんだ」 「えっ?」 「男ってね、大切にしたい女の子は、自分の左側を歩かせるものなんだ」 「何で!?」小鳩が、興味津々といったかんじで、勇輝に詰め寄る。 「まあ、一般論なんだけどさ、男は女を守るために、常に利き腕を空けておくものなんだ」 「だから、ああやって肩を抱いて歩くときは」 「そっか、左手で抱くんだ・・・」小鳩が感心したように言った。 「そっ、だから、男が、右手で女を抱くのは」そういって、勇輝が小鳩を抱き寄せる。「逃がさないためだよ」 あまりに至近距離で見つめられて、小鳩は真っ赤になって飛び退いた。勇輝が笑っている。 「でも、彼が左利きだったらどうするのよ・・・」「あっ」それは勇輝も考えていなかったようだ。 「ま、まあ、いいじゃねえか、結果的には、助けてぇ〜だったわけだし」 「いいかげんだなあ〜」小鳩も笑っていた。 「ポッポがそう叫んでくれなかったら、俺は飛び込めなかったぞ、だいいち、どこの部屋かも、わかんないんだから」 「うん、ありがと」 「先輩、大丈夫だっかたな・・・」 「ん? まあ、消火器だからな、たいしたことないと思うけど」 「あ、そうじゃなくて・・・」 「ん? もしかして、こっちのことか?」そういって、勇輝が膝を振り上げて見せる。小鳩が恥ずかしそうにうなずいた。 「うん、まあ、潰れでもしない限り、問題ないよ」 「あれって、痛いの・・・?」 「実は、俺も、激しいのは経験ないんだけどさ、聞く所によると、スッゴイらしい」 「ホントに?」なぜか2人は、小声になっていた。 「ああ、天国のおじいちゃんに会ったってヤツまでいるからな」「ゲッ・・・」 「でもさ、危ないときは、俺、どんどん蹴飛ばしていいと思うんだよね」 「そうなの?」 「ああ、どっかの哲学者が言ってたよ、神は男に、女を守るための力と、女にやられるための弱点を与えたって」 「それ、どんな哲学者よ・・・」小鳩が苦笑いしている。 「ユーキ・カワイ、知らないか?」「あんたかい!」 勇輝と話していると、心から楽しくなってくる。光一郎とのデートも、すごく楽しかったのだが、それとは、明らかに質の違う楽しさだった。さっきまでの恐怖も悲しさも、すべて夢だったんだよって、そういって頭をなでてくれるようで、心から幸せな気持ちにさせてくれる。 「恵理子が、うらやましいな・・・」 「え、何だって?」「なんでもない!」小鳩がイタズラっぽく笑った。 「あ〜あ、フラれちゃったな」小鳩が、天を仰ぐ。 「ま、そういうこともあるよな・・・」 「みんなに、何て話そう・・・あっ!」急に小鳩が立ち上がった「私、奈美のGジャン、置いてきちゃった!」 「ね、勇輝、ちょっとコレ持ってて」そういって、小鳩が勇輝に、自分のハンドバッグを渡す「私、取りに行ってくる!」 「だめだよ、今、戻るのは」「だって!」 「明日にでも、取りに行けばいいよ」 「ダメ! そんなことしたら、部屋汚しちゃったの、バレちゃう。それにあれ、奈美がすっごく大切にしてるやつなの。無くなっちゃったら取り返しつかない」 「う〜ん、じゃあ、取りに行くか、でも、どうやって入る?」 「私と勇輝で、カップルになって・・・」と、小鳩が勇輝に駆け寄って腕を組む、だが・・・。 「これじゃあ、止められちゃうね・・・」「うん・・・」とてもそんな所に入る2人には見えなかった。 「ねえ、そもそも、勇輝はどうやって入ったの?」 「ああ、1階の部屋の窓が、換気用に空いていたから・・・」「それだ!」2人は、大きくうなずいた。 「よし、じゃあ、行くか、相棒!」「了解!」笑顔で声をかける勇輝に、小鳩が踵を揃えて、敬礼で応えた。 つづく |