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「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」 3 再会!?(3) 「しっかしまあ・・・」 これが夢の中であれば、食べる直前に覚めてしまったりするものだが、目の前に並んだファーストフードの山と、紙越しにも漂ってくる生暖かいパンの匂いは、紛れもない現実だ。ストローの刺さった2つの紙コップは、その足元に大きな水輪を作り、少年の「早くしろよォ〜」の声を待つまでもなく、全てが恵理子を待ちわびていることを示していた。 「おっ、ちゃんと待ってるな、エライエライ」 「あったりまえじゃないか・・・」少年は子ども扱いされたことが、かなり不満そうだ。 「悪かったよ」恵理子はそう言おうとしたが、不自然に減ったポテトを見て、思わず吹き出してしまい、そのきっかけを失ってしまった。 「なんだよ、何がおかしいんだよ・・・」 「いや、なんでも、さ、食べよっか!」 「いただきま〜す!」2人で声を揃えると、少年の機嫌もすっかり戻ったようだ。 それにしても、この少年はよく食べる。この小さな体のどこに、そんな食欲が潜んでいるのかはわからないが、真白そっくりの少年が大口を開いてハンバーガーにかぶりついている様は、恵理子にしてみれば、あまりにも面白い映像だった。 「なんだよ、ジロジロ見るなよ」少年に言われて、恵理子は自分の手が止まっていることに気がついた。「ああ、わるい・・・」 「おれさあ、もう2日も、何も食べてなかったんだよねえ」ひとり言のようにつぶやく間にも、少年の手は休むことはなかった。 「なあ、お前、あんな所で、何してたんだ?」 「決まってんだろ、修行だよ、修行! 見てわかんなかったか?」 言われてみればごもっともなのだが、恵理子が訊きたいのは、そんなことではない。 「だって、2日も食べてないって・・・、お前ほどの腕前なら、少しはお金も貰えるだろ」 そう言う恵理子に、少年は少しあきれたような顔をして言った。 「あのなあ、あの程度のことをできるヤツなんか、ゴマンといるんだよ。それに俺は、自分で満足できなかったときは、お金を貰わないようにしてる。同情なんかで、自分を安売りしたくはないからね。」 「今日はうまくいってたんだよ・・・お前が来るまではな」 「ああ・・・」少年の思いを聞き、恵理子は改めて、悪いことをしたと思った。 「ほら!」突然、少年は恵理子を指差した。「今、お前、すまなかったと思ったろ!」 あまりにハッキリと見透かされ、恵理子は驚きの表情を浮かべる。 「そういうのが嫌なんだよ、あのなあ、あんなのはただのハプニングなんだよ。もっと言えば、お前が叫ぼうが何しようが、驚いて仕掛けを落としちゃったんだから、あれは一方的に俺が悪いんだ。それをなんだよ、一方的に背負い込んだような顔しやがって、そういうのがいちばん、あっ・・・」 そこまで一気にまくし立てた時、少年は初めて、恵理子が涙をこぼしているのに気が付いた。 「あ、ごめん・・・、おれ、ちょっと言い過ぎた・・・、でも・・・その・・・」 少年の苦しげな言葉に、恵理子はうつむいたまま、大きく首を振った。 「ごめん、そうじゃない、そうじゃないんだ・・・、アタシ、ほら、そんな、夢とか目標とか、そこまで真剣に打ち込んだことなかったから・・・」 いつ途切れるとも知れない気まずい空気、それを先に打ち破ったのは、少年の方だった。 「でも、まあ、こうしてゴハンもおごってもらえたわけだし、今日のハプニングは、まあ、ハプニングの中でも、いい方のハプニングであって・・・」 何だかよくわからない少年の慰めに、恵理子の顔にも、まあ、涙は止まってはいないのだが、少しだけ笑みが戻った。 「さて、と、じゃあ、そろそろ・・・」 立ち上がろうとする少年に、恵理子が声をかける。「お前、これからどうするんだ?」 「・・・まあ、今日も野宿だな、大丈夫、もう慣れたから、いい場所見つけたんだ、ほら、あの商店街のとなりにある、でっかい公園、あそこの・・・」 無理して笑顔を作ろうとする少年、彼をそのまま放り出すわけにもいかないだろう。 「なあ、今日、ココ泊まっていってもいいぞ・・・」 「本当か!」待ってましたとばかり、今度は心底、満面の笑みを浮かべ、パイプベッドに飛び込んだ。 「コラ、そこはアタシのベッドだ! それに・・・」 いつの間にか、恵理子も笑っていた。 「ええい、着替えろ!布団が汚れる!」恵理子は少年に飛びかかり、無理やり服を脱がそうとする。 「きゃあ、えっちい、襲われるう〜」少年はおどけて、荷物を抱えて風呂場に飛び込んだ。 「キャハハ! お前、なんだよ、それ・・・」風呂場から出てきた少年は、上下まっ黄色に水玉模様のパジャマ、それにおそろいのナイトキャップまでかぶっている。恵理子は腹を抱えて笑い転げている。 「なんだよ、そんなにおかしいかよ」少年はちょっと恥ずかしそうにしたが「しからば、おやすみい!」と、再びベッドに潜り込み、頭まで布団をかぶる。 「だからあ〜、そこはアタシの・・・」布団をはぎ取ろうとする恵理子に、少年は「じゃあ、一緒に寝るか?」と、イタズラっぽく笑った。その言葉に、一瞬ひるんだ恵理子の表情に、さらにその笑みを深め、「おやすみい!」と繰り返して、再び頭まで布団をかぶった。 「まったく・・・」恵理子はあきらめたようにつぶやき、散らばったファーストフードのゴミを袋に詰めていたのだが、思い出したように、少年に問いかけた。 「なあ、お前、名前、何ていうんだ?」 だが、少年は答えなかった。既に静かな寝息を立てている。 「なんだかなあ、寝顔までそっくりだよ・・・」 こんなに笑ったのは、久しぶりかもしれない、そんなことを思いながら、写真立ての写真に目をやって、それから部屋の明かりを落とした。 「ところで、何でアタシが床で寝てるんだ?」 つづく |