「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」

   30 ドキドキ(4)

 門限30分前、小鳩が寮に帰ってきた。
「あれ、早かったじゃん」ベッドの上から、奈美が声を掛ける。小鳩のベッドの上には、知佳も転がっていた。
「で、で、おみやげは?」「そんなのないよお〜」知佳が詰め寄ってきた。
「あ〜、つかれた!」小鳩がバッグを机の上に投げ出して、そのまま奈美の隣に座る。
「なにそれ、なんかオバちゃんくさい」「どう? 初デートの、ご感想は」
「う〜ん、いろいろ、あったかな・・・」小鳩が、天井を見上げた。
 それから小鳩は、今日の出来事を、順番に話した。待ち合わせに彼が遅れたこと、映画が立ち見だったこと、2人も、興味深げに聞いていたのだが、やがて、言葉を失った。
「・・・なんか、映画見たいな話ね」「うん・・・」
「でも、良かったじゃん、正義の味方が来てくれてさ」
「だから言ったじゃない。あの先輩、危険だって」
「うん」小鳩が、それぞれにうなずく。
「と、いうわけで、小鳩ちゃんは、フラれてしまいましたとさ」「ちゃんちゃん♪」明るく言う知佳に、小鳩が自分で、オチをつけた。知佳がベッドから立ち上がり、小鳩を挟むように、3人並んで座る。
「Gジャン、ありがとな、大変だっただろ?」
「ポッポも、少しは大人になったのかな?」
2人が交互に、寄り掛かってくる、それに揺らされながら、小鳩が真ん中で、恥ずかしそうに笑っていた。
「よく、頑張ったな」そう言って奈美が小鳩の頭をコツんと叩く。
その瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、小鳩が大きく揺れ、そのまま、奈美の胸に泣き崩れた。小鳩の小さな体を、奈美がしっかりと抱き止める。知佳は、小鳩が泣き止むまで、ずっと、彼女の手を握っていた。

Insert Song
「ドキドキ」
Words:YUKI Music:Yoshihito Onda
JUDY AND MARY/1995


鼻先をくすぐる風に少し照れ笑いして
歩道を渡る仔犬の群れは足早に歩き出してる
ママの作ったプディングはバニラの匂いがした
公園まではあと少し 口笛を吹いてる


 5日ぶりに、小鳩が部室に顔を出した。
「ポッポォ〜、どうしたの? 辞めちゃったかと思ったよ」部員たちから、歓迎の声があがる。
「ちょっとサボっちゃった」照れ笑いの小鳩が、それにひとつひとつ応えていく。奥の長椅子に、知佳と奈美の姿も見えた。
「よっ」軽く手を上げて合図する知佳に、小鳩も手を上げて応えた。


長い髪に憧れた 夜に降る雨は好きだった
フラれて泣きべその帰り道 おしゃべりは助けてくれた
見上げるほど高い向日葵はみんなの匂いがした
「もう二度と会えなくなるの?」それが聞けなかったの


 「よ、久しぶり!」小夜子がやさしく声をかける。
「ご迷惑おかけしました」小鳩が大きく頭を下げた。
「お前ら3人が揃ってないと、いまいち部室が盛り上がらないんだよね」そういって、小夜子が、笑いながら小鳩に手を差し出す。
「早速で悪いんだけど、合宿のレポート、期限過ぎてんだわ」
「はい!」言われて小鳩が、カバンから数枚のレポート用紙を取り出した。
「なんだ、出来てんじゃん」小夜子がそれをホチキスで留めて、クリアファイルに挟んだ。「じゃあ、あとで目、通しておくな」
「はい!」


空をあおいで 手を叩いて 大地にキスをするような
生まれたての物語と 果てしない胸騒ぎ


 クルっと振り向いて、小鳩が2人に近づいていく。どした?と声をかける奈美、その2人の真ん中に割り込むように、小鳩がお尻をねじ込んだ。小鳩が両手を2人の肩に回す。
「ねえ、2人は、私のとなり星だよね」小鳩が、天井を見上げながら、楽しそうに言う。あっけにとられる2人、その光景を、小夜子だけが、嬉しそうに眺めていた。


歩き疲れたら 叫びだして 暗闇を恐がるような
子供の瞳に 映る虹は こわれる事を 知らない


   新歓合宿レポート  1年A組 鈴丘小鳩
「おおぐま座連動星団の発見に関する、R.A.プロクター氏の研究の考察」

 北斗七星の形は、偶然の並びによって作られたものではない。1869年、R.A.プロクター博士によって提唱されたこの学説は、1872年 W.ハギンスの視点速度の測定により、それが立証された。その後、この発見は、多くの学者たちに引き継がれ・・・


手をのばして 光に顔を照らして



   つづく

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