「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」

   31 デート!(1)

「なあ、恵理子」「ん?」
「明日、休みだろ?」「うん」
「デートしようぜ」「!」
 恵理子と勇輝、2人が生活を始めて、そろそろ1ヶ月が経とうとしていた。
「デートねえ・・・」「な、どっか行こうよ」
勇輝とデート、そういえば、勇輝とは、近所への買い物以外、ほとんど出歩いたことがなかった。デート、たまにはいいかもしれない。
「よし、じゃあ、どっか行こうか!」「やった!」勇輝が子供のように喜ぶ。この顔が見たくて、自分は勇輝と付き合っているのかもしれない、恵理子は最近、そんなことを思ったりもする。
「で?どこ行きたいんだ」「遊園地!」即座に勇輝が答える。
「遊園地かあ・・・」
「な、いいだろ? 俺の住んでる町にはさあ、そういうの無かったんだよ」
「あれ、そういえば、お前、どこから来たんだっけ?」いつか訊こうと思っていた事、恵理子は突然、それを思い出した。
「言わなかったか?」「聞いてない」
「中国!」「中国!? 中国って、あの中国?」
「他にどんな中国があるんだよ」
「だってお前、日本語ペラペラじゃないか」
「ああ、俺の両親は、2人とも日本人だからな、俺はむしろ、中国語の方が使えないんだ」
「ふ〜ん、中国ねぇ、あ、だから手品うまいのか」
「いや、それは関係ないと思う・・・」勇輝が苦笑いを浮かべる。
「中国っていっても広いよな、中国の、どこだ?」
「ずーっと西の方、砂漠のほとりにある、ファンチュエンという町」
「ファンチェン?」「ファンチュエン!」
「聞いたことないな」「まあ、地図にも載ってないような町だからな」
「なんでまた、そんな遠いところから・・・」
「それは、言ったはずだよ」
「え・・・あ!」恵理子が微笑む「うん、確かに聞いた!」
「恵理子に会いに来たんだよ」
「あたしに会いに来たんだよね」そこで声が揃い、2人が笑いに包まれる。
「遊園地、行こうか!」「うん!」
私も遊園地なんて、何年ぶりだろう、中学生のとき、友だちみんなで行ったのが最後かな。だが、その前に、恵理子には1つだけ、気になることがあった。
「よし、明日は遊園地、だから、その前に!」「?」
「お前、その風邪、ちゃんと治せよ」
そういえば、勇輝は昨日あたりから、少し調子が悪いようだ。今日もたまに咳き込んだりしている。
「風邪ひきは、連れてかないぞ」
「這ってでも行ってやる!」勇輝が笑う。
「引きずってでも連れてってやる!」つられて、恵理子も笑った。

 翌日、快晴、絶好のデート日和である。朝早くから、勇輝が(!)弁当を作っていた。恵理子は、服の選択に余念が無い。
「あんまりめかし込んでも、変わんないぞ」「うるさいよ!」
そういう勇輝も、朝から既に、外出着に着替えていた。といっても彼の場合、黒のYシャツにジーンズという簡素なものだったが。
「さて、そろそろ参りますか!」勇輝がお決まりの野球帽をかぶる。
「なに張り切ってんだよ」恵理子が笑いながら、靴を履く。隣にいるのは勇輝だから、今日はヒールは必要ない。スニーカーで出かけよう。
「あれ、お前、その靴で行くのか?」見ると、勇輝が恵理子に買ってもらった革靴を履いている「お前、運動靴はどうした?」
「ああ、あれね」勇輝がニヤリと笑う。
「ポッポに貸しちゃった」「はあ?」
「なんでもない!」そういって、勇輝が楽しそうに、玄関を出て行く。何やらよくわからないが、とにかく恵理子も、それを追った。
 2人で駅への道を歩く。いつもと同じ光景なのに、デートと名が付くと、どこか照れくさい。知り合いに会ったらどうしよう、自信もって、紹介しちゃおうか、私の彼氏だって。思い切って恵理子が手を繋ぐと、勇輝は、恥ずかしそうに下を向いた。
「お前、それ、持って来たのか?」見れば、勇輝がいつもの大きなバック、つまりマジックセットを肩に掛けていた。
「ああ、本日のメインイベントだ」そういって勇輝が、そのバッグを叩いてみせる。
「お前、遊園地って、それが目的だったな!」「バレた?」楽しそうに笑う勇輝に、恵理子は、やられた、と、舌を出して天を仰いだ。
 その遊園地までは、私鉄を乗り継いで、1時間ほどかかった。最寄駅から入り口までは、動く歩道が続いていて、その歩道の天井からは、すでに楽しそうな音楽が流れている。
「まずは遊ぼうか」「うん!」勇輝の荷物をコインロッカーに押し込み、待ちきれないとばかり、その歩道の上を、さらに歩いて、2人はゲートへと急いだ。

   つづく

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