「続・リップスティック 〜 それぞれの場所へ 〜」

   7 同居(2)

「そうだ、訊いておこうと思ったんだけど」
「うん?」恵理子の質問に、少年は目をまん丸にして顔を上げた。
「お前、名前、何ていうんだ?」
すると少年は、やれやれといった表情を浮かべながら
「人にモノを訊く時は、まず・・・」と、そこで2人の声が見事に重なった。
「読まれた?」「当然! そうくると思ったよ」2人は顔を見合わせて笑った。
「あたしは、恵理子、知恵の「恵」に、理科の「理」で、子だ。」
「ふ〜ん、恵理子か・・・」少年は少し考えてから「いい名前だな」と、付け加えた。
「ありがと」「社交辞令だよ」と、歯を見せて笑う。いちいちトゲあるやつだなあ。
「だいたい、世の中に、悪い名前なんてあると思うか?」
「そりゃそうだけど・・・、ああ、もういいよ、ほら、今度はそっちの番だぞ」
「俺は、勇輝(ゆうき)、勇ましく輝くって書いて、勇輝だ・・・って、笑うな!」
「わるいわるい」言いながらも、恵理子はまだ笑っている。
「いい名前だな」「笑いながら言われてもうれしくねえよっ!」
ついに笑い転げた恵理子が、隅のカラーボックスにぶつかると、その上から写真立てが落ちてきて、恵理子の頭にぶつかった。
「いってぇ」ところで、恵理子はまだ、笑いが止まらない。「天罰だな」勇輝がその写真立てを拾い上げて、写真を見ている。
「なあ、恵理子、この写真・・・」勇輝もビックリしているようだ。
「ん? ああ、それか」と、ようやく起き上がった恵理子が、勇輝を見つめて「驚いただろ」「ああ・・・」
その写真には、女の子が5人、その中には、恵理子もいる。なぜだかみんな、おそろいのジャージのようなものを着て、満面の笑みで写っていた。そして勇輝が驚いているのは、たぶん。
「ホント、そっくりだな」恵理子が、写真と勇輝を、しみじみと見比べる。勇輝はまだ、信じられないといった表情で、写真に見入っている。
「なあ、ところで、この写真、なんかみんな、変な格好してないか?」
「ん? ああ、ま、いろいろあって、話すと長いんだけどな、それ、少年鑑別所の服なんだ。その写真は・・・その、なんだ・・・」
「なんだよ、もったいぶらずに言えよ」
「あたしたちの、脱走記念ってとこだな」
「脱走!?」「だぁ、声がでかい!」別に今、脱走しているわけじゃあるまいし、声がデカくても関係ないと思うのだが。
「平気なのかよ、脱走なんかして」
「まあ、すぐ戻ったからな」「いや、そういう問題じゃ・・・」
「ところで、どうだ?」恵理子はニヤニヤと笑っている。「何がだよ」
「2年前のあたし、どう?」
「ふ〜む」勇輝は少し考えてから「かわいい」と言った。が、その指は、真白を指している。
「自分で言うかぁ、普通!」
「自分じゃないやい」
「お前、さっき、社交辞令とか何とか、えらそうなこと言ってたじゃないか!」
「うるさ〜い、俺は自分が一番かわいいんだ!」
「自分じゃないって言ったのもお前じゃないか!」
「・・・・・・・・・!」
「・・・・・・!」
とまあ、2日目の夜も、こうして何事もなく更けていくわけで・・・。ただ1つ、恵理子が「失敗したなあ」と思ったのは、勇輝を先に風呂に入れたことだった。

「なあ、勇輝」ユニットバスのドア越しに、恵理子が話しかける。「ん?」
「お前、こいつらに会いたいか?」
「こいつらって、写真のか?」
「ああ、真白は・・・もう無理だけど、他の3人なら連絡が取れるから」
「うん・・・」と、少し間があって「興味はあるな」
「OK!じゃあ、予定調整しとくから」「ああ」
恵理子は部屋に戻りながら「みんな、驚くぞォ」と、笑いを抑えきれなかった。

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   恵理子で〜す(^。^)
   みんなに会わせたい人がいます。
   次の土曜日、都合がつくでしょうか。
   連絡まっています。
   P.S.安奈へ、写真集出版おめでと!
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 恵理子の携帯から放たれた3通のメールが、夜の町へと飛び出してゆく。便利になったものだ。えらそうな専門家は、情報化社会の発達により、社会における人間関係はかえって希薄になり・・・などと言っていたりもするのだが、恵理子には、そんな難しいことはどうでもよかった。携帯のおかげで、例え離れていても、声を聞くことができるし、気持ちを伝えることができる。なにより、どこか同じ空の下で、みんな頑張っているんだと思うと、それだけで勇気が湧いてきた。
 そうそう、勇気といえば、勇輝が風呂場から、例によってパジャマ姿で現れた。交代で、恵理子が風呂に入る。いつのまにか、一人暮らしに慣れてしまったのだろうか、勇輝がいることは、かなり刺激的で、とても面白く、そして、相当に疲労する。恵理子は、いつもより長めに、風呂に浸かっていた。勇輝がいつまでここにいるのかはわからなかったが、恵理子はちょっとだけ、もう少し一緒にいたいと思っていた。
 あ、ところで、風呂からあがった恵理子を待っていたものは、ベッドの上で既に熟睡している、勇輝の姿だった。「あちゃあ〜・・・」恵理子の失敗とは、このことだった。

   つづく
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