「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   10 朝からカキフライ(2)

窓を閉じると、もう春のように暖かく、窓を開くと、まだ少し肌寒い。
それでも窓が開けたくなったら、その時ようやく、春になったと呼べるのかもしれない。
春まで、もう少し、トモは陽だまりの中で、窓を全開にして、外を眺めていた。
部屋に差し込む陽ざしに、部屋の中が、逆に夜のように真っ暗になる。
平日、昼下がり、リカの部屋に、私とトモ、2人きり。
ラジカセから流れる、小さなドリカムの曲以外、他に音もなく。
「トモ、何か見えるの?」
「・・・ん〜? うん、青くん」
「青くん・・・?」
「そう、青くん、今日はもう、帰りたいみたいだね」
私はそっとトモに近づき、隣に座って、トモと同じように、外を眺めた。
半分眠ったようなトモの口調が、午後の陽射しによく似合う。
「見えるかな、あの、木の陰、あそこに、青い服を着た男の子がいるだろ?」
「あれが、青くん?」
「そう、いっつも青い服を着ているから、俺が名付けたんだ」
「で、どうしてその青くんは帰りたいの?」
「・・・あの子ね、帰りたくなると、いっつもお母さんの自転車を蹴飛ばすんだ。後ろのタイヤを、何度も何度も、帰らせろ、帰らせろって」
「ホントだ、蹴ってる蹴ってる」
「でもね、お母さんは、ほらあそこ、あのベンチの前で立ち話をしている3人、あの中の、白い帽子をかぶった人。ほら、何となく、自転車の方を気にしてるだろ?」
「うん」
「変なお母さんなんだよね、子供には、毎日青い服を着せて、自転車も青、よっぽど青が好きなのかなと思えば、自分は、一切青いものを着たためしがないんだ」
「へえ〜、よく見てるよねえ」
「まあ、毎日ここにいるとね。マシロのことだって、毎日見てたんだよ」
「ホントに?!」
「うん、なんか、変な女の子がいるなって」
「ひど・・・」
「アハハ、でね、あの青くん、もうすぐ次の手に移るよ」
「次の手?」
「うん、蹴飛ばしただけじゃ、お母さんは帰ってきてくれない、それはわかってるみたいなんだよね。次はベルを鳴らしたり、乱暴なときには、自転車を倒したりもするんだ。さあ、今日は何をするかな・・・」
トモがワクワクしながら、私はハラハラしながら眺めていた。
カラカラと小気味よく回る後輪、手を挟んだりしなければいいけど。
そのうち青くんは、カギの部分をカチャカチャといじくって、カギを抜くことに成功した。それを手のひらで転がして、それから、茂みに向かって投げてしまった!
「アッハハ、バカだねえ、あれじゃ余計帰るのが遅くなるよ」
大慌てで駆け寄ってくるお母さん。何か叫んで、あ!、青くん叩かれちゃった。お母さんが茂みに飛び込んで、あれ、青くんは泣き出しちゃってる。
「ねえトモ、カギ探すの、手伝いにいこうか」
「ん〜? いんじゃないの、余計なことしなくて」「そうかな・・・」
「そうそう、いつものことなんだから。俺、ちょっと寝るね。マシロも、好きにしてていいよ。よかったら寝てもいいし、リカのベッド、空いてるから」
「あ、うん・・・」
「制服じゃ寝にくかったら、その辺にリカのジャージか何か、あると思うよ」
「ありがと・・・」
私じゃ、役不足なのかな・・・。
リカには、トモの相手をするように言われてたけど、どうもリカのようにはうまくいかない。少しだけ悔しかった。
とりあえず、トモは今、お酒を飲んでいないから、一応の役目は果しているんだけど。
リカのベッドに腰をおろす。トモとお揃いのシングルベッド、失礼な話、この部屋には少し不釣合いなほど、いい感じのベッドだった。大体、ベッドを2台並べるような、広い部屋でもないのだし。
そのまま体を倒し、ぼんやりと天井を見上げる。やがてその天井もぼやけ、ついには見えなくなった・・・。

気が付くと、リカはすでに帰ってきていた。ベッドサイドに腰掛けて、トモと何やら話をしている。
「おっ、マシロ起きたか?」
「・・・ゴメン、私、寝ちゃって・・・」
「あ、いいって、何か気持ちよさそうだったから、起こすのもかわいそうかなって」
「そうかな・・・」私の照れ笑いに、リカも小さく微笑む。
「そのベッド、寝心地いいだろ、トモが買ってくれたんだ」
「あ、そうなんだ・・・ええっ?!」思わず、自分の耳を疑った。このベッドを、トモが買った?! しかも2台??
「うん、俺さ、ベッドじゃなきゃ、良く寝れないんだよね」
「ゼイタクなんだよ、トモは」
「育ちがいいからねっ、それで、リカにベッド入れていいかって訊いたら、いいよって言うから」
「あたしも寝てみたんだけどさ、これが気持ちいいんだ。それで半分貸せって、次の日からはあたしも一緒に寝ることにしたんだけど・・・」
「リカがね」「トモがね」「寝相が悪くて」「寝相が悪くて」
「朝になるとさ、必ずどっちかが下に落ちてるんだ。こりゃダメだって思ったね」
「そんなことが1週間も続いたんだけど、そしたらさ、同じベッドが、もうひとつ届いちゃったんだよ! 驚いたね、トモの奴、今度は何も言わなかったんだから」
「おかげで快適だろ?」「おかげで部屋が狭いよ」

   つづく
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