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「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」 〜 Chapter1 真白編 〜 14 禁断の夏みかん(2) 「私の学年で、退学になった人っていますか? 1年の夏あたりらしいんですけど」 「1年の夏・・・一昨年か、並木梨花のことかな・・・」 「あ、はい!たぶんその人だと思います。先生、覚えてますか?」 「覚えてるも何も、俺の担任の生徒だったからな、あいつは」 「そうだったんですか」 「で、その並木がどうかしたのか?」 「この間、偶然話をしたんです。お互いがお互いを知らなかったから、最初は同級生だってこともわからなくて」 「おお、そうか、あいつは元気にやってるか?」 「はい、先生のことも言ってましたよ。いい先生だったって」 「またまた、そんなこと言って」「ホントですってば」 それから私は先生に、リカのことを少し話した。どうやって出会ったのか、今、何をしているのか。 「お前さあ、そんなバカなことしてないで、部活出てくりゃいいじゃないか・・・」 「そうなんですけど、まあ、その話は置いといて・・・」 「そっか、あいつも、頑張ってるんだな」 「先生、リカって、どうして退学になっちゃったんですか?」 そう訊くと、先生は本を閉じて、窓の外にゆっくりと目線を送った。 「あいつはな、入学前から、中学校でも評判のワルだったんだよ。もともとこの河北高は、都立の中でも、比較的おとなしい学校だろ? そこに突然、あいつみたいのが入学してきたもんだから、学校中が大騒ぎになった」 「そうだったんですか」 「井川、なんでおまえ、知らないんだ?」 「え、あ・・・」 「お前、自分の身の回り以外興味ないだろ」 「あ、そうかも知れないですね。あはっ・・・」 「なんか井川らしいよ・・・。それでな、4月の職員会議で、まず、並木のことが話題になったんだ。さあ、どうするかって。担任だった俺には、当然、いろんな質問や要求が飛んだんだけど、そのうち、なんだか会議の方向性がずれてきちまった。なんであんな奴を入学させたんだ、入試選考委員は何をしてたんだ、調査書を理由に落とすこともできたはずだって、職員会議特有の、責任転嫁だな」 「そんな、じゃあリカは、この高校に入っちゃいけなかったって言うんですか?!」 「ああ、俺だってそう反論したよ。でもな、一度火がついちまった会議は、もう、誰にも止められないんだ。結局、会議の結論はこうだ。並木梨花が何かしたら、どんな些細なことでも、逐一報告するように。職員一丸で、しっかり監視していきましょうって」 「ひどい話だろ? 結局さ、彼女の更生だとか、そんなことは一切眼中にないんだ。ただ、他の生徒を巻き込まないように、悪い評判が校外に出ないようにって、あいつらはそれしか考えていない。監視なんてただの建前で、本当は、彼女を退学にする理由を、無理やり探してるだけなんだ」 「でも・・・」「ん?」 「結局、その会議に出席していたわけですから、失礼な話、先生も同罪じゃないんですか?」 「キビシイな、井川は。ああ、まったくその通りだよ。過ちに黙するということは、それだけで罪深いことなんだ」 「すいません、生意気なこと言って・・・」 「いや、いいんだよ」そう言って、先生は小さく笑った「実はな、並木にも、同じ事を言われたんだ。俺はどうしてもその会議の結果が許せなかったから、あいつに先に注意したんだ。お前、マークされてるから気をつけろって」 「そしたらあいつ、こう言ったんだ。そんなことは始めから分かってる。それをあたしに報告して何しようっていうんだ。自分だけは味方のつもりか。お前もその一味のクセに、偽善ぶるのもたいがいにしろって・・・、痛いところをつかれたよ。俺はその時思ったね。ああ、この子はきっと、今までもずっと、そういう目で見られてきたんだなって。中学校でも不良扱いされて、せっかく入った高校でも、いきなり最初から目をつけられて、そのことに一番傷ついてるのは、彼女自身なんだって」 「俺は決めたね。この子は、絶対に卒業させてやるって。退学になんかさせない。せっかく入学したこの高校に通うことは、この子の権利なんだって」 「うん・・・」 「だけどな、あいつ、俺の気持ちを知ってか知らずか、まあ、よく暴れてくれたよ。ダメだってのに、学校にスクーターで登校するし、髪は染めるし、制服だってまともに着たことないし。気に入らないことがあると、先輩だろうが教師だろうが、とにかく殴る。なんだか暴走族の彼氏とも付き合ってたみたいだしな。その度に、俺はあいつを社会科準備室に呼んで説教した。ケラケラ笑って、ちっとも聞いてなかったけどな。ちくちょう、俺の頭がこんなになったのも、半分くらいはあいつが原因だぞ」 リカの思い出を語る先生は、どこか楽しそうだった。世話のやける子ほどカワイイっていうけど、ホントにそんな感じだった。 「それでもあいつがさほど問題にならなかったのは、きっと、授業だけは、まじめに出席してたからだろうな。成績もいいんだよ。だから、記録上は真面目で優秀な生徒なんだ」 「リカ、言ってましたよ。学校は授業を受けるところなんだから、授業以外の余計なルールはジャマくさいだけだって」 「ああ、あいつらしい言い方だな。俺だって、ホントはそう思うよ。でもな、学校は、社会生活を学ぶ場でもあるんだ。ある程度の規則は必要だよ」 「そうですね・・・」 「俺も、このまんまならうまく行くんじゃないかって、そんな気がしてた。その矢先だよ、事件が起きたのは・・・」 「あいつが一緒にツルんでた暴走族チームが、覚せい剤の不法所持で逮捕されたんだ。あいつはその時、一緒にいたけど、使ってなかったし、持ってもいなかったから、補導だけで済んだんだけどな」 「これはヤバイと思ったね。普通、補導でしかも初犯なら、退学になんてすることでもないけど、覚せい剤というのはマズイ。あいつは職員会議の結果がでるまで、とりあえず自宅待機ということになった」 「俺は会議をほっぽりだして、あいつの家に押しかけたんだ。あいつ、ベッドの中で頭まで布団を被って、うずくまってたな。俺が声を掛けると、そのまま、ちいさくつぶやくんだ」 「先生・・・もう、誰もいなくなっちゃったよ・・・。みんな捕まっちゃって、あたしひとりになっちゃったよ・・・」 俺はあいつを布団から引きずりだして、思いきり抱きしめた。あいつ、泣いてたな。背中が小刻みに震えてて。あいつの涙を見るのは、後にも先にも、あれ1回きりだ。 「何言ってるんだ。お前は一人じゃない。一人じゃないんだ。な、とりあえず学校に来いよ、友達だって待ってるだろ?」 「あたし、友達なんていない! みんなあたしの事、不良だって目で見て、近づこうともしない。先生だってみんなそうだよ!みんなあたしがいなくなればいいと思ってるんだ!」 そんなことない、と言いかけて、でも・・・、俺には言えなかった。 きっと、その通りだったから・・・ 「なあ並木、お前は、クスリなんか使ってないんだろ?」 「・・・・・・うん」 「だったら大丈夫だよ、今、ちょうど職員会議の真っ最中だ、俺は今すぐ学校に戻る。お前も着替えてすぐに来てくれ。お前がくるまで、なんとか食い止めるから、そしたら、二人で一緒に謝るんだ。いいか、すぐに来いよ!大丈夫だ、絶対退学になんかさせないから!」 「先生・・・もういいです。あたし、学校なんかに、そんなに未練ないですから・・・」 「何言ってるんだ!お前、あんなに真剣に授業受けてるじゃないか。なあ、勉強好きなんだろ?何か夢があるんだろ?だったらそんな簡単に投げ出すなよ!友達なんかいなくたっていいじゃないか、先生たちにどんなに嫌われたって関係ないじゃないか!あの教室は、お前の教室だ、あの机は、お前のものだ。入学したら、誰にだって卒業する権利はあるんだよ!」 「先生・・・」 「いいか、お前のことは、卒業まで俺が守り通してやる。孤立したって構うもんか!」 俺の両肩を掴んでいたあいつの手が、とたんに力を失って、あいつは膝から崩れ落ちた。俺はさらに手に力をこめて、それを支えるように立ち続けた。 「ありがとうございます・・・先生、あたしも、すぐ、行きますから・・・」 「ああ、任せろ、お前も、急いでくれよ」 「はい・・・・・・」 俺はあいつをベッドに座らせると、そのまま家を飛び出した。 つづく |