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「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」 〜 Chapter1 真白編 〜 15 禁断の夏みかん(3) 「山元先生!どこに行ってたんですか。あなたがいないと、始まらないじゃないですか!」 「すいません、ちょっと、並木のところに、行ってましたので」 「職員が外出するときは、必ず黒板に書いてから出る、常識でしょう?」 「すいませんでした・・・」 「で、彼女は何と言っていました? まあ、今回ばかりは、さすがの山元先生でも、弁解の余地はないでしょうなあ。警察に補導、しかも、容疑が覚せい剤とは・・・」 「待ってください。確かに彼女は補導されましたが、彼女自身は、クスリを持っていたわけでも、使っていたわけでもありません」 「だからといって、一緒に遊んでいた仲間が持っていたんですから、それは同罪でしょう。殺人事件では、現場にいただけで共犯になることもあるんですよ」 「でも彼女は、決してクスリなんか使っていません。尿検査でも証明されています」 「今回は、でしょう?」 「なんてことを言うんですか!そんなに生徒のことを信用できないんですか?!」 「ああ、できませんね、少なくとも、日頃の彼女の言動は、信用なんてものに値しませんよ!」 「今、彼女もこちらに向かっています。まずは、彼女の言い分も聞いてやってください。結論はそれからでも遅くないでしょう?!」 「遅くない・・・、遅すぎるくらいですよ」 やがて、会議室のドアが、小さくノックされた。 扉が開いて、そこに、彼女は立っていた。 制服をきちんと着こなし、セーラー服のスカーフも、ちゃんと留めていた。染めた髪の色を除けば、どこから見ても、普通の女子高生だった。 でも、その手には、退学届が握られていたんだ・・・。 「すいませんでした。あんなにしていただいたのに・・・」 放課後の社会科準備室、何度、ここで彼女を説教しただろうか。 「なあ・・・ホントにいいのか・・・?」 「はい、もう決めましたから。いろいろお世話になりました」 そう言って、彼女は窓枠に手をつき、校庭を眺めた。夏の陽はまだまだ高く、彼女の茶色い髪を、一層淡く染めていた。 「あたし、先生にこんなにしてもらったのに、その先生に、ウソついちゃったんです」 「ウソ・・・?」 「はい・・・、ホントはあたし・・・、クスリ、使ったことあるんです。あの時じゃなくて、前に、一度だけですが・・・」 「・・・・・・」 「あたし、結局先生も裏切っちゃって、そしたら、あたしをこの学校に繋ぐもの、何もなくなっちゃったんですよね・・・ああ、これはもう、辞めるしかないなって」 「・・・・・・」 「わかってますよ、きっと先生は、私のこと信じてくれるし、今回だって、二人で謝れば、きっと退学にはならないって。でも、それじゃダメなんです。先生を、たった一人のあたしの味方を裏切ったまま、ここに残るなんてできないですから」 「そうか・・・」 「先生だって、うそつきは嫌いでしょ?」 「・・・ああ・・・嫌いだ」 「そう、だから・・・決めたんです」 「・・・でも、それでも、俺はお前のことが好きだ」 「えっ・・・」 「うそつきは嫌いだけど、お前のことは好きだ。だってお前は、決してうそつきなんかじゃない!」 「先生・・・」 「本当のうそつきは、いつまでも嘘をつき続けるんだ。なぜなら、それが苦しくないからだ。その嘘を正直に話してしまう人間は、本当のうそつきなんかじゃない。嘘がつけない人間なんだ。だから、俺はお前が好きなんだ。だってお前は、最後にまた正直に話してくれたじゃないか、俺は、本当に嬉しいんだぞ・・・」 「・・・先生、ありがとうございます。あたし、この学校に入って、先生に会えて、本当に良かったと思います」 「ごめんな、卒業させてやれなくて・・・」 「いいんです。高校なんて、やろうと思えば、いつでも戻れるんですから。だから先生も、ずっと先生でいてくださいね。あたしが戻ったとき、先生みたいな先生がいないと、イヤですよ」 「ああ・・・約束する」 「はい」 「俺って、いい先生だな・・・」 「自分で言うなよ」 そう言うと、彼女の顔にも少しだけ、笑みが戻った。 「ねえ先生、時々、この部屋に戻ってきていいですか? いろいろ、聞いてもらいたいこととかあったときに」 「ダメだ」「えっ?!」 「退学した生徒なんかに、学校内をうろつかれても困る」 「そんな・・・」 「お前がこの部屋に戻るのは、お前が、きちんと復学したときだ」 「・・・そうですね・・・わかりました!」 「お前、外で友達を見つけろ。いつまでも、俺に頼ってちゃしょうがないだろ?」 「はい・・・」 「いいか、友達はな、探すんじゃなくて、見つけるんだ。この違い、わかるか?」 「よく・・・わかりません」 「うん、それはな、お前がホントの友達を見つけたら、きっとわかるよ」 「はい、頑張ってみます」 「それが違うんだ、頑張っちゃダメなんだ」 「はあ・・・」 「な?俺っていい先生だろ?」 「自分で言いますか・・・」 すごい話を聞いてしまった。リカにそんな過去があったなんて・・・ 「あ〜あ、少し調子にのってしゃべり過ぎたかな、並木に言うなよ? 俺がしゃべったって」 「う〜ん、じゃあ、口止め料!」私は机の上に乗っていた先生の夏みかんを奪い取った。 「あっ」 「いけないんですよお、図書室は飲食禁止なんですから」 「先生はいいんだよお」 「そんなことないです。だったら司書の先生に確認してみますか?」 「もういいよ・・・」 「やった〜、没収〜♪」 いつのまにか、お昼を回っていたので、私は立ち上がった。もう試合も終っている頃だろう。 「あ、なあ、井川」「はい」 「お前は・・・並木の友達か?」 「・・・うん・・・まだ、よくわかりません」 「そっか、ならそれでいい。あいつは元気か?」 「はい、もうピンピンしてます」 「そっか、なら、それもいい。あいつにもよろしくな」 そう言って、先生また、本に目を落とした。その表情は、どこか涙をこらえているようにも見えた。 「先生も」「ん?」 「勉強頑張ってくださいね」 「ああ、ありがと、お前はやさしいな」 「いい生徒でしょ?」 「自分で言うなよ・・・」 つづく |