「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   16 20世紀のコカ・コーラ(1)

「まったくあの野郎、余計なことまで喋りやがって・・・」
「うん・・・でもなんか、いい話聞いちゃったな」
「で? どうよ、リカちゃんの武勇伝は」
「・・・リカらしいといえば、リカらしいし、でも、リカと覚せい剤っていうのが、どうも・・・」
「ピンとこないか?」「うん・・・」
「まあ、あたしも荒れてたわけだ・・・」リカはゆっくりとトモの方に目線を送る「トモに会うまではな」
ラジカセのCDを入れ替えていたトモは、それに気づいて、でも、何のことかわからないという風に、不思議そうにしている。
結局、あの口止め料は、リカと、トモと、3つに分けて食べてしまった。しかもそれが口止め料であることまで説明しちゃったのだから、私もたいした確信犯だ。でもきっと、それでいいんだと思う。ね、先生。
「リカ・・・覚せい剤、その1回きりだよね・・・?」
リカはきっと大丈夫。いつもみたいに、力強く頷いて欲しかったのに、でも、リカは黙ってしまった。その沈黙が、何を意味するのか、私の顔が、徐々に不安に覆われ、感じ取ったリカは、目を逸らして、ついに小さく首を振った。
トモが戻ってきて、リカの隣にピッタリと座る。ラジカセからは、再びドリカムが流れてきて、その沈黙を、ゆっくりと包み込んでいった。
「ねえ、トモって、ドリカム好きだよね」
「俺じゃなくて、リカが好きなんだよ」
話を逸らそうとした私と、それに応えてくれたトモ。リカはゆっくりトモの頭を撫でながら、私に小さく、ありがとう、と微笑んだ。リモコンでラジカセの音量を少しだけ下げて、そのまま手持ち無沙汰にリモコンをクルクル回しながら、ゆっくりと口を開いた。
「・・・いや、その後も、何回か・・・」
「・・・・・・そうなんだ」
「最低だろ・・・あたしって」
「・・・ちょっとね」
「ハッキリ言うなあ・・・」
「でも、今は止めたんでしょ?」
「なあリカ、クスリって、やるとどんな感じなんだ?」
「トモお前、それを知ってどうする気だよ」
「どうするってわけじゃないけど、ホラ何か、やっぱ興味あるじゃん、なあマシロ?」
「私は・・・」
「トモ、そんなもの興味なんか持つな」
「イヤ別に、俺もやってみようってわけじゃないんだから・・・」
「ダメだ」
「だからやらないってば!」
「ダメだって言ってるだろ!」
突然、リカが叫んで、隣にいたトモを抱きしめた。リカの胸の中から、トモの苦しそうな声が漏れてくる。それでも、リカはその手を緩めなかった。
「リカ、トモも悪かったって言ってるよ」
「・・・うん」ようやくリカがその手を解いて、でも、トモはまだ、そのまま胸の中にいた。少し怯えたように、しがみついている。

「そのクスリはな、最初、あたしたちのリーダーが持ち込んできたんだ。あたしもさ、最初、これはヤバイって思ったね。今までも、酒とか、タバコとか、時々はシンナーなんかもやったけど、でもこれはきっと、絶対踏み込んじゃいけない一線だと思った」
「みんな悪いものだと思うけど・・・」
「うん、そう・・・そうなんだけど、でも、なんかさ、やっぱヤバさが違うんだよ、今までのとはさ。でも、リーダーは、すごく気持ちよくなれるって言うし、雅也、あ、これ、あたしの元カレな、雅也も、1回だけなら大丈夫って言うし、それで・・・」
「それで・・・じゃあ、リカもその時・・・」リカは、頷いたようにも、うなだれたようにも見えた。
「でもあたし、やっぱり怖かったからさ、じゃあ、みんなで使おうって言って、リーダーも了解してくれた。シャブは注射だから、まず水に溶かすんだ。それを注射器で吸い上げて、リーダーから順番に、ちょっとずつ打ちながら回ってくる。マワシっていう儀式だ。酒もシンナーも、みんなこの方法で回ってくる」
「どんな感じになるの?」
「マシロ、だから興味持つなって・・・」
「あ・・・」
「でも、そうなっちまうんだよな、興味持つなってのが、そもそも無理なんだ。結局あたしも、その好奇心に負けたクチなんだし・・・何より、マワシが始まっちまえば、もう、外れることは許されないんだ」
「みんなは、肘の内側なんかに打つんだけど、女は目立たないところがいいって、あたしの場合は、二の腕に打った。自分で注射なんか打ったことなかったから、その時は雅也が打ってくれた。あたしで最後だったから、残り全部、みんなよりだいぶ多かったんじゃないかな。そのせいかもしれないけど、効き目は異常に早いんだ。針を抜いた頃には、もう全身に寒気が走り回ってて、とにかく、これはヤバイって思ったときには、もう手遅れだったんだ・・・」
リカは抱いていたトモをさらに強く引き寄せると、あぐらをかいた自分の足の上に乗せた。後ろから抱え込み、トモのお腹の前で手を組んで、泣きそうな顔で、背中にもたれ掛かるように頬をよせた。トモが苦しいよと漏らしても、ごめんな、とつぶやくだけで。
「リカ、辛いんだったら、もう話さなくてもいいよ・・・」
「・・・うん」リカは一旦目を閉じて、それから、微笑むように細く開いた。「でも、もう少しだけ・・・、今なら・・・トモとマシロがいれば、思い出しても、平気だと思うから・・・」
「リカ、がんばれ!」
トモのあまりにストレートな応援に、思わず、リカと顔を見合わせて笑ってしまった。でもそこで笑ったことが、リカの次の句の勇気になったんだから、トモの応援は効果抜群だったと言える。

   つづく
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