「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   18 20世紀のコカ・コーラ(3)

「抜けたきゃかってに抜けろ、その代わり・・・」静かに笑う冷たさに震えがきた「あいつの借金、払ってからにしろ」
「借金?」
「とぼけんじゃねえよ、あいつが今までに使ったシャブ代、いくらだと思ってんだよ!」
「・・・いくら、なんですか?」
「ま、ざっと100万ってとこだな」
「そんな!」
「別に吹っかけてるつもりはねえぜ、これくらいが相場だよなあ」
リーダーの呼びかけに、メンバーが一斉にうなずく。仲間だと思ってたのに、いつのまにか、みんなリーダーの兵隊になっていた。
「イヤならいいんだぜ、雅也が出てきたら払ってもらうから、ただその頃には、相当利息がついてるなあ。かわいそうなやつだぜ、女をかばって、体壊してネンショーぶち込まれて、出てきてみれば、女は逃げてて、残ったのは借金の山か・・・」
「・・・・・・!」
「どうした? 払うのか?逃げるのか?」
「・・・わかりました、100万でいいんですね」
「ああ、特別サービスだ、利息は勘弁しといてやるよ」
「必ず払います。その代わり2度と、あたしと雅也に近づかないって、約束してください」
「・・・ああ、金さえもらえれば十分だ、お前は女なんだから、金を作る方法なんて、いくらでもあるだろうからな」
100万円、重い額だ。でも、あたしは払わないわけにはいかなかった。100万円きっかり、利息はつけない、払い終わったら、あたしたちには2度と関わらない、そんなことを、リーダーと誓約書を書いて確認した。

「100万円、あてはあったの?」
「ないよ、そんなもの。ひたすらバイトだな。月10万目標で、雅也が帰ってくるまでには、なんとか払いきれるんじゃないかと思ってた」
「・・・・・・思って、た・・・?」
「・・・あたしは、すぐにバイトを始めた。でも、どこも長くは続かなかった」
「あいつらに・・・ことごとく潰されたんだ。最初に始めたバイトはコンビニの店員、あいつらは、どこで聞きつけたのか、数日後、店に乗り込んできた。改造バイクで乗り付けて、雑誌売り場で座り込んで本を読み、タバコを吸い、勝手にお菓子を食べ散らかして・・・あたしはもう、他人の振りを決め込んでたんだけど、あいつらが大声で私の名前を呼ぶもんだから、店長にバレるのも時間の問題で」
「ひどい・・・」
「あとはもう、何をやっても結果は同じさ、コンビニもダメ、ファーストフードもファミレスもダメ、店は無理だって事で、配送の助手とか、仕出し弁当の箱詰めなんてのもやった。でも、あいつらはやっぱり、仕事場の前にバイクでたむろして、空吹かしやクラクションで騒ぎまくって・・・もう気が狂いそうだったよ。あいつらはさ、結局最初から、あたしに仕事なんかさせないつもりだったんだよな。もう手遅れでも、誓約書なんか書いた自分を死ぬほど悔やんだ」
「それがさ、ある時パタッと、止まっちまったんだよ、あいつらの嫌がらせがさ。すごく不思議だってのと同時に、でもとりあえずはラッキーだと思ったね。あいつらが言った"女なんだから"っての、一番気にしてたのは、あたしだったしさ」
「そんな金、返さなくていいよ、逃げちゃえばよかったんだ」
「だから誓約書書いちゃったんだってば、そんなことしたら、出てきた時、雅也が困るだろ?」リカがトモの頭を撫でながら笑う。話が重くなりそうになると、トモが適度に口を挟んでくれて、なにかその度に空気がリセットさせるような気がした。わざとやってるの?まさかね・・・。
「最初の一ヶ月で10万円、次の月は、もっと頑張って13万円返した。おかしかったのは、3回目の返済のとき、その時も、13万円を持っていったんだけど・・・」

あたしがその部屋に入ると、メンバーは誰もいなくて、リーダー1人、そして、見知らぬオヤジが、中にいた。誰だろう、きったない格好、新聞の勧誘みたいな服着て。
「ようリカ、待ってたぜ」
いつものように手を上げるリーダーの仕草、でも、どこかぎこちない。あたしは出来るだけ気にしないように封筒を渡した。13万入り、リーダーはそれを無造作に数えて、そのまま封筒に戻した。そして次の瞬間、それをその、見知らぬ男に渡したんだ。
男はそれを内ポケットに押し込み、リーダーの肩をポンと叩いて、そのまま部屋を出て行った。あたしも、リーダーも、次の言葉を出せなかった。その沈黙を嫌がるみたいに、リーダーが大きく咳払いをして、ようやくいつもの見下したような笑顔が戻った。見たくもない笑い顔のはずなのに、何故かこの時、あたしはホッとした。
「・・・気にすんな、お前には関係ない」
「あ、ああ・・・」
「これであと、いくらだ?64万か、ご苦労なこったな」
リーダーが何をしているのかわからなかったけど、とにかく、あたしには関係ないというのは確かだと思った。来月は14万目標、4ヶ月で半分なら、うん、いいペースだ、なんて少し浮かれてもいた。
その男の正体がわかったのは、それから、半月後のことだった。
その日、バイト先に、リーダーがやってきた。といっても、嫌がらせにきた風ではなくて・・・。
「なんだよ、こんなとこまで、また嫌がらせか?」
「バカ、そんなんじゃねえよ・・・」
「じゃあ何の用だよ」
「なあ、今月、少し早く返してくれねえか」「はあ?!」
「頼むよ、ちょっと要り用でさ」
「バカ言ってんじゃねえよ、あたしだってなあ、給料日までは返せねえんだ」
「わかってんだよ、そんなことは。だからこうして頭さげてんだろが。全額とは言ってねえよ、とりあえず5万でいいんだ」
「それが頭下げてる態度かよ、とにかく、ねえものはねえんだ。帰れ帰れ!」

「本当は、5万ならなんとかできたんだ。バイトは2つやってたし、1つは週払いだったから。でも、あたしは断わった。なにかいやな予感がしたんだ。このままお金を渡しちゃいけないって。先月部屋にいたあの男の存在。あいつ、借金取り? いや、そんな生易しいもんじゃなかった・・・」
「なんだよ、もったいぶらずに言えよ」
「別にもったいぶってるわけじゃないけどさ」そう言って、リカは口元だけで笑って見せた「そいつ、ヤクの売人だったんだ」
「リーダーはホゴカンで帰ってからも、結局、クスリを止められないでさ、そいつから買ってたんだ。きっと、あたしの金も、みんなそれに消えちまったんだろうよ」
「じゃあ、リカにお金借りに来たり、お金を封筒ごと渡したり・・・」
「ああ、のめり込んじまったんだな、それだけ、切羽詰ったってことだ」
「でもさあ、そんなやつがヤク中になったところで、リカには関係ないだろ、さっさと金払っちまえば、そいつらとは切れるんだから」
「それが、そうもいかなかったんだよ」
「なんで!」
「・・・あたしの書いた誓約書、あるだろ。あいつ、それを売人に売りやがったんだ・・・」
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