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「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」 〜 Chapter1 真白編 〜 21 ナノハナ サイタ 帰るのがだんだん遅くなっている。でも今日は、いつもの憂鬱な帰り道とは少し違う。ラケットを振ると、カタカタとプラスチックのぶつかる音、早く帰ってCDを聴こう。早足で歩きたいのに、急いだらCDが壊れちゃいそうだ。脇に抱えて、小走りになる。銃を抱えた兵隊みたい。 ドアを開けると、お店はもう始まっていた。常連のお客さんの顔も見える、そこそこ賑わっていて、お母さんも楽しそう。そして何より、今日はあいつの姿がない! 「お帰り!」 「ただいま、ゴメン、遅くなっちゃった」 「よお真白ちゃん、久しぶりい」 「あ、佐久間さん、こんばんは。いいんですか?こんな所で飲んでて、奥さん、お腹大きいんでしょ?」 「そうなんだ、聞いてくれよ、あいつさあ、出産準備で実家に帰っちゃってんだよ。気が早いよなあ、まだ1ヶ月も先だってのに」 「あ、そうなんですか、じゃあ、今日はゆっくりしていってくださいね」 「言われなくても、最近ここばっかしだ。どっちが家だかわかんないよ。なあ真白ちゃん、久しぶりに、何か作ってよ」 「うん、じゃあ、ちょっと待っててくださいね」 カウンターに回りこんでエプロンに手を伸ばす。 「真白、着替えて来なさいよ」と、お母さんが何かに気付く「どうしたの?そのCD」 「あ、これ? 友達から借りたの」 「お、何なに?真白ちゃん、そのCD」 「ドリカムですよ〜、知ってますかあ?」 「知ってるよお、きっと〜、何年たっても〜ってやつだろ?」 「そうそう、でもこれはその曲じゃないですけどね」 「ふ〜ん、どんな曲?」 「お母さん、かけていい?」「いいわよ」 お店の有線放送を止めて、ステレオにCDを飲ませる。やさしい前奏が流れる、それだけで、お店の雰囲気がずいぶんと変わって、他のお客さんも、おっと顔を上げる。 「雪のクリスマス」 words:Miwa Yoshida music:Miwa Yoshida and Masato Nakamura Dreams Come True/1990 街灯が点る頃に 降る雪が少し 粒の大きさ増した さっきから もう首が痛くなるくらい 見つめている空 瞬きをたくさんして 目に入る雪をはらう ふうわりと宙に浮かぶ気がして よろめいた 「たまにはこういうのもいいわねえ」 「お母さん、ドリカム知ってる?」 「お母さんの世代はもう、若い人の歌にはついていけないわ、ねえ藤永さん、知ってます?ドリカム、ですって」 「え、何だって?」 「何だってじゃないですよ、ドリカム」 「ドリカム・・・おお、知ってるよ、うちの車にも積んであるぞ。ドリカム積んだ車はパワーが違うよな」 「・・・・・・」 大好きなあなたにも 見せたい 歩道の石に重なる白が つぶやきを消してく 「お母さん、冷蔵庫開けるよ」「どうぞ」 両開きの業務用冷蔵庫を大きく開くと「うわあ」一面まっ黄色の花畑!菜の花だ。 「どうしたの?これ」 「ああ、八百屋さんが置いてったのよ、季節のものだからお店にどうぞって、でも、どうしていいのかわからなくて・・・」 「だったらなんで冷蔵庫に入れるのよ」少し笑って、抱えるように全部取り出す。顔を埋めると、蒼いお日様の匂いに満たされた「これね、飾ってもいいけど、おひたしにできるのよ」 全部じゃ多いから、お店に飾ろう。空き瓶とか、グラスとか、お店のあちこちに挿していくと、うん、一気に春らしくなったぞ。 さて、それから、鍋に水を張って火にかける。煮立つまでに、下ごしらえ。 よ〜く水で洗って、それから、花の部分は包丁で外してしまう。 「あれ、その花、捨てちゃうの?」お客さんも興味津々、私もどこか得意げに料理を進めていく。 「まさか。菜の花ってホントはね、花が咲く前に食べるものなのよ。八百屋さんがタダでくれるくらいだし、花が咲いちゃうと、あんまりおいしくないの。でもね、ちゃーんと使い道があるから」 沸いた鍋に塩を少し入れて、花だけをザルに入れたままお湯にくぐらせる。1・2・3秒でOK!すぐに冷水にさらすと、色が抜けない。うん、鮮やかな黄色、そのままザルで水を切る。 「同じ要領で葉っぱも塩茹でしてアクを抜くのね、冷水にさらして、こっちはしっかり水気を絞るの、水が出ちゃうと、おいしくなくなっちゃうから」 軸の部分は、少し固いから、縦に切ってしっかり茹でる。これで茹でる作業は完了! 「ホントはこのままおしょうゆでもおいしいんだけど、今日はお酒のおつまみだからもうひと手間ね」 ボールにだし汁、しょうゆ、みりん、そして練り辛子、花の色を生かすなら、しょうゆは薄口しょうゆが・・・ない、家から持ってこよう・・・。 「軸と葉っぱをこれであえて、最後に花を添えればできあがり、"菜の花の辛子和え"どう?春らしいでしょ」 お店から歓声が上がる、うん、気持ちいいかもしれない。小鉢に移して、お客さんに振舞う。 「真白ちゃん最高!」「星みっつです!」 「真白、あんたすごいわ、明日からお店任せちゃおうかしら」 「ダ〜メ、まだ未成年なのよ、ほら、お母さんも食べて」「うん」 「佐久間さんもどうぞ、菜の花はね、ヨーロッパでは、安産のお守りだったりするんだから」 「・・・俺の娘もなあ、真白ちゃんみたいにカワイイのが生まれてくれればなあ」 「まだ娘って決まったわけじゃないでしょ」 「いや、絶対娘!それで、名前は真白に決定! いいよね、ママ」 「いいわよお、奥さんに説明できたらね」「あ・・・」 いつの間にか、CDも終っていた。雪のクリスマス、菜の花が咲いたら、そりゃ終るか。 「真白、そろそろいいわ、もう戻りなさい」 「あ、うん、じゃあ」 「え、まだいいじゃんねえ」 「ごめんなさい、また今度、何か作りますから」 お母さんが私の背中を押すように部屋に戻す。ちょっとやりすぎたかな、妬かれちゃったかもしれない。 つづく |