「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   23 ライトビールはいかがですか?

本格的に春休みに入っても、特にやることは変わらなかった。
学校がなくなった分、リカの家にいる時間が増えただけだ。
朝はいつもどおりに起きないと、リカを起こす時間に間に合わない。最近はすっかり信用されてしまってるらしく、リカは目覚ましをかけていない。
トモを起こしちゃかわいそうだからなんてもっともらしい理由をつけて、でもトモなら、いつもリカより先に起きてますよ〜だ。リカが知らないだけだってば。
7時40分、定刻に玄関をくぐる。きちんと制服を着て、スポーツバッグとラケットを持って、いったい何をやってるんだ、私は。
「トモ、おはよ」「ん・・・おはよ・・・」
リカの家に入る通行証だったラケットは、いつか、リカを起こすための道具に変わっていた。ガットの部分で、頭をポンポンと叩く。
「リカ〜、朝だよ〜」
「・・・ん、んん・・・わかっ・・・」
と、こう言ってる時はわかっていない。リカのクセ、つかんできたぞ。ラケットを90度くるっと回して、ごめんね、柄で叩く。
「!」
「リカ、朝だよ!」
「・・・ってえ 何すんだよ」
それに答える代わりに布団を剥ぎ取っちゃう。突然の寒波に、しがみついて抵抗を試みるリカ、そこにトモが、窓を全開(!)にして追い討ちをかける。うん、ナイス連携。
「わかった、わかりました、起きますってば!」
しぶしぶ起き上がるリカと交代で、私はまだあったかいリカのベッドに潜り込む。トモがすかさず窓とカーテンを閉め、自分もベッドに潜る。またまたナイス。
しばらくドタバタと、朝の準備の音が続き、やがて、
「いってくるぞ〜!」
「いってらっしゃ〜い!」トモと一緒に、ベッドの中から声を上げる。たいそうなお見送りだ。
こうして、午前中は、ほとんどお昼寝(?)タイム、昼過ぎにどちらからともなく起きて、お昼を食べる。前の日に、リカがコンビニで買い込んできたものがあるから、特に準備する必要もない。スポンサーはトモなんだってさ。
大きな変化といえば、トモがカーテンを閉ざしてしまったことだろうか。あれほど外を見るのが好きだったのに、なんだか最近、外が眩しいんだって。外出するときは、ギャングみたいな真っ黒のサングラスを手放さない。
午後は午後で、ず〜っとトモと話をしているかもしれない。トモがいやがるので、部屋はあまり明るくできないし、テレビも見たがらない。だから、ずっと音楽をかけながら、話をしている。
トモは私の学校の話が好きみたい。いろんなことを聞いてくる。球技大会の結果なんて知ってどうするのか知らないけど、トモは2−A男子の優勝を自分の事のように喜んでくれた。
自分の学校は嫌いだけど、マシロの学校なら行ってみたい、だって。やめといたほうがいいよ、絶対獲って食われるから・・・
じゃあ、明日は林間学校の写真持って来るね、なんて約束して、そうこうしているうち、リカが帰ってきた。大ニュースだと興奮している。
「いやあ、すっごいもの見ちゃったよ!」
「なあに?」「何なに?どうしたって?」
「お前らさあ、シャッターの閉まったコンビニって、見たことあるか?」
「へ?」
「コンビニだぞ、24時間営業の、あれのシャッターが閉まってたんだ!」
なんだ、そんなことか・・・どんなニュースかと思った。思わず立ち上がっちゃったじゃない、トモと一緒に定位置に戻る。
「というわけで、トモ、今日は買い物なし、ビールも無いからな」
「なにい?!」
あらら、トモには衝撃ニュースだったみたい。
「そりゃ困るよ!」
「知らないよ、あたしに言われたって、つぶれちまったんだな。永い間ありがとうございました、だってさ」
「勝手につぶれるなよ!毎日買ってやってるのに」
「あたしは、コンビニにシャッターがあること自体驚いたな」
トモが冷蔵庫に駆けて行く。こんな俊敏に動くトモ、久しぶりに見た。
「どうすんだよ、1本しかないぞ!」
「1本ありゃ十分じゃねえか・・・」そう言ってリカは、グラスを3つ持ち出してきた。
「おいおい、リカも飲むのかよ」
「あったりまえだろ、お前と違って、一日働いてきたんだから。マシロも飲むだろ?」
「マシロは飲まないよな、俺と一日、家にいただけだもんな」
私は・・・どっちかといえば飲みたくないわけで、しかも、泣きそうな顔をしてるトモを見ちゃうと、どうしても、「・・・うん、じゃあ、ちょっとだけ」イジワルしてみたくなるよねえ。
結局、350の缶を3人で3等分、リカと私は少しずつ減らして、だからちょっとだけトモのが多い。
「かんぱ〜い!」
リカは一気に飲み干して、私は半分くらいで顔をしかめる。トモはいつになく大事そうに飲んでいる。
「どうする?トモ、別の店で買ってこようか?」
「いいよもう、リカ、着替えちゃっただろ?」「うん・・・まあな」
「私のでよかったら飲む?私、こんなに飲めないから・・・」
「・・・いいのか?」「どうぞっ」
そういって差し出した私のグラスを、トモは両手で受け取った。ニコニコと笑って、両肘をついてちょっとずつ飲んでいる。オレンジジュースを貰った子供みたいな仕草で。
「マシロ、なんか俺のばあちゃんみたいだ・・・」
「おばあちゃん?」「うん」
「俺が小学生のときに死んじゃったんだけどさ、いつも優しくて、俺、大好きだった」
「そうなんだ」
「俺の両親は共働きでさ、しかも、いつもすっげえ忙しいから、授業参観とか、運動会とか、いつも来てくれたのは、ばあちゃんだったんだ」
「ばあちゃんはさ、いっつも俺におかずとか分けてくれるんだ。今のマシロみたいにさ。もう食べられないよって言ってんのに、ナオはこれからどんどん大きくなるんだから、たくさん食べなきゃダメだって、もう無理やり・・・」
「えっ・・・?」「ナオ?!」「!」
何かおかしい。リカも気付いた? トモ、今、自分の名前間違えた・・・?!
「お前・・・今」
「と、とにかく、マシロにビール貰ったらさ、そんなこと思い出しちまったんだよ」そう言ってトモは、残りのビールを一気に飲み干した。
「そうだマシロ、ドリカム聞いたか?」
「あ、うん・・・」
「何から聴いた? あ、いや、ちょっと待て、当ててみせる、なあ、リカは何だと思う?」
なんだか、トモは話を逸らそうとしてるみたい。
「そうだなあ、マシロのことだから、まずは1stから順番に聴いてそうな気がするな、違うか?」
リカもトモに話を合わせて、そうだね、私もあまり突っ込まないようにしよう。
「残念、ハズレ!」
「甘いなあ、リカは。俺の推理はこうだ。マシロは「未来予想図U」を気にしてたから、きっとTも聴いてみたくなってたと思うよ。ずばり、真っ先に聴いたのは「MILLIOM KISSES」とみた」
「う〜ん、キミの推理は、なかなかするどいね。でもそれは2番目に聴いたんだ」
「なんだよ、トモもハズレかよ、なあ、何から聴いたんだ?」
「正解は、これ!」そう言って制服の胸ポケットを指差す。今は何も入ってないけどね。
「雪クリかあ!」「そっか、忘れてた!」
「そうそう、帰ったらすぐにお母さんに見つかっちゃってね。それどうしたのって、それからすぐに、お店で掛けたんだよ」

   つづく
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