「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   25 マジックスープ(1)

「どこ行ってたんだよ」
「わるいわるい、ちょっとマシロと、な」
「ね」
「なんだよ2人して・・・」
「トモくん、覚悟しておけよ」
「??」
「大丈夫よ、いじめたりしないから」
「何だかよくわかんないけど、まいいや、で?リカ、お昼は買ってきたのか?」
「お昼?もうそんな時間か?」
「なんだよ気が利かねえなあ」
「わかったよ、行ってくる、トモ、何食う?」
「ヒレカツ弁当!」
「お前それ好きだな・・・マシロはどうする?ヒレカツでいいか?」
「お弁当買ってくるの?」
「ああ、コンビニつぶれちまったからな、最近は駅前の弁当屋を使ってる、結構美味いんだぞ」
「おいしいのはわかるけど・・・ねえ、作ったりはしないの?」
「あたし?無理無理、最近ちっとも料理なんてやってない」
「うん、そういえば、俺も食ったことない」
「出来ないわけじゃないんでしょ?」
「失礼なこと言うなよ、前に話しただろ?男と暮らして、毎日料理も作ってたって」
「だったら・・・」
「うーん、何ていうのかな、毎日ビールを買いに行くだろ、そうすると、一緒に何やらおいしそうなものが売ってるわけだ。これを利用しない手はないだろうって思うんだよね。つまりあれだ、作るのが面倒くさいんじゃなくて、もう一軒スーパーまで行くのが面倒くさいんだな。作ろうと思えば作れるんだぞ」
「何だか長い説明だけど、結局面倒くさいんじゃない・・・」
「わはは、リカ、言われたな」
「トモに笑われたくないね!」
「そんなことしてると、お金だってかかるでしょう。体にだって良くないんだよ」
「スポンサーはトモだから、お金の心配はないけど・・・」
「よしわかった、今日は私が作ってあげる!」
「本当?」
「行くのか?スーパー、結構遠いぞ」
「ご心配なく、買い物なんて行かなくたって、冷蔵庫の余りモノでも結構作れるんです!」
「お、言うね」
「さすが主婦歴40年!」
「誰が40年よ!」
リカとトモがニヤニヤと笑っているのが気になったけど、私は振り払うように立ち上がり、意気揚揚と冷蔵庫へと向かった。トモが後ろから楽しそうについてくる。結構この家、台所は広い。ガスコンロは2口あるし、電子レンジもある。片手鍋、両手鍋、フライパン、なんだ、結構揃ってるじゃない。きれいに片付いてるのは、リカがきれい好きなのかもしれないし、ただ使ってないからなのかもしれないけど。
「マシロ、見て見て、これ!」
私が台所のチェックをしている間に、トモは早くも冷蔵庫を開いていて、私に手招きしている。ハイハイと返事をしながら歩み寄る、トモの背中越しに覗き込むような体勢になり、そのまま前のめりに倒れこんだ・・・
「なに・・・これ・・・」
「すごいだろ、これ」
冷蔵庫の中は、もう一面の銀世界。と言っても、別にゲレンデや雪だるまがある訳でもなくて、もっと物理的に銀色。ビール、ビール、ああもう、ビールビールビール!!サッカー中継じゃあるまいし、そんなに叫んでも1点も入らないけど、とにかく冷蔵庫の中は整然と銀色の缶ビールばっかりが並んでいた。ウチの業務用冷蔵庫だって、こんなには入ってないぞ。
「リカ、何よこれ!」
「ワハハ、すごいだろ、コンビニつぶれちまったからさあ、遠くの酒屋までバイクで買いに行ったんだよ。そしたらまあ、箱で買うと安いのな、ビールって」
「だからって、全部冷蔵庫に入れることないじゃない!」
「いやあ、置いとく場所もないし、とりあえず、しまっておこうかなって」
「そういうことするから、こういう酔っ払いが図に乗るんじゃない・・・」
「それって俺の事?」
もお!トモの頭を強く押すと、ケララと笑って、そのまま床に転がった。
はいはい、そうですよ、リカの家の冷蔵庫に期待した私がバカでしたよ。だいたい、コンビニで毎食済ましてる人の冷蔵庫に、余りモノなんてあるわけ無いじゃない。
「どうするマシロ、おとなしくヒレカツ弁当にするか?」
「それだけは絶対ダメ!」
「意地はるね」
「買い物行ってくるから、リカはおとなしく待ってなさい」
「こわ・・・」
「トモ、買い物行こ!」
「おっし、行こう!ちょっと待ってて」
トモは這いつくばるように早足で移動して、野球帽と外出用のサングラスを装備した。
「リカ、何食べたい?」
「トモ、リカになんて訊かなくていいよ、今日はトモが食べたいもの作ってあげるから」
「はいはい、そうですか・・・」リカはちょっと拗ねたような仕草、トモは子供っぽいなあ、なんて思ってたけど、なんだ、リカも結構子供だ。この2人、恋人というより、仲のいい姉弟みたい。
「食べたいもの?えっと、じゃあ・・・」トモの顔からはワクワクが溢れている。何だかクリスマスプレゼントを選んでるみたいに「・・・思いつかないから、歩きながら考えるよ」
「うん、そうしよっか。じゃあ、リカ、行ってくるね」
「ああ、気をつけてな」
「いってきまーす!」
リカの声に送られて、アパートのドアを閉めかけて・・・「マシロ!」リカの声に再びドアを開いた。
「気を付けろよな」リカ、今度は真顔だった。
そうだね。真っ黒のサングラス、目深にかぶった野球帽。私はトモの手をもう一度強く握りなおしてドアを閉めた。

   つづく
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