「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   26 マジックスープ(2)

悪いアルコールを飲みつづけると目が潰れるなんて言うけど、今のトモの状況と関係あるのだろうか。
トモが言うには、世の中が明るすぎてしまうらしい。例えば、夜電気を点けたとき、慣れるまで時間がかかるけど、ああいう状態が続いちゃうんだって。
このままトモの手をひいて、目医者さんに連れて行っちゃおうかなんて考えるけど、リカは、それはしない方がいいって。
そうだよね、アルコールが原因だなんて、それがわかったら、トモはどこかに連れていかれちゃうのかもしれない。どこかって、明確にはわからないから、余計不安になる。病院に入院させられちゃうのかもしれないし、リカの彼氏みたいに、医療少年院とかに押し込まれちゃうのかもしれない。大人たちは、よってたかって、トモからお酒を取り上げるに違いない。そんなのダメ。
結局はトモが両親のところに帰れれば一番いいんだろうけど、そもそも、トモの両親ってどんな人なんだろう。
自分の子供が何ヶ月もいなくなってて、ねえ、探さないの?心配じゃないの?
そんな風にトモの顔を覗き込んだら、トモはどうしたの?って顔して、いつもみたいに笑ってるだけだった。
トモの笑顔は、全てをゼロに戻しちゃうんだ。このままじゃいけないのに、このまま以外に何をすることができるんだろう。このまま、トモの笑顔を守るために、このまま、このまま・・・
リカが、トモのお酒を止めさせられない理由、今なら少しだけわかる気がする。何かしたいと思えば思うほど、何も出来なくなるんだ。
いっそ、トモが笑わなくなっちゃえばいいのに。
憎たらしいくらい、どうしようもない酔っ払いになっちゃって、暴れたり、わめきちらしたりしちゃえば、私たちはトモを縛り付けてでも、お酒を止めさせてあげるのに。
「マシロ・・・泣いてるのか・・・?」
急にトモに話し掛けられて、私は突然我に帰った。泣いてた?私?あわてて目に手を当ててみるけど、涙はこぼれていない。
「ほ、ほら、お昼何にしようかなって、ずっと考えてたの」
「そうは見えなかったけど・・・」
「いいの、とにかく考えてたの!で?トモは決めたの?食べたいもの」
「うん・・・まだ考え中」
「そう・・・」
リカが言ってたとおり、いや、言ってた以上に、スーパーまでは遠かった。もう結構歩いたと思うけど、リカからもらった地図によれば、このあとさらに、大通りを歩道橋で越えて、信号を三つほど歩くことになっている。
「ねえ、トモのお母さんって、何か得意な料理あった?」
「俺?俺の母さんかあ、料理なんて作ってもらった記憶無いなあ・・・」
「そうなの?」
「うん、母さんは父さんと一緒に一年中仕事で飛び回っててさ、あまり家には帰ってこないんだ。だから、昼も夜も、食事の準備は、いつもお手伝いさんがしてくれてた。朝は誰もいないから、仕方ない、パンとか焼いて、一人で食べてたけどね」
「寂しくなかった・・・?」
「そりゃちょっとはね。でも、父さんも母さんも仕事で頑張ってるんだから、仕方がないと思うよ。家に帰れないほど働いてるんだから、俺がわがまま言っちゃダメだよな」
「・・・・・・」
「マシロ、そう暗い顔すんなって。俺なら平気だからさ。そうだ、今思いついた。俺、朝食が食べたい」
「朝食・・・?」
「うん、ホラ、あるじゃん、ご飯と、味噌汁と、焼き魚と、って、ああいうやつ。俺、ああいうのが食べてみたいな」
「朝食ねえ、昼だけど、いいの?」
「いいの!俺が食べたいもの作るって約束だろ?料理長は客のオーダーに応えるべし!」
「はいお客様、朝食でございますね。かしこまりました!」
「よし、そうと決まれば、早くいこうぜ!」
「あ、待ってよ!」
トモが私の手を引いてぐんぐん走り出す。歩道橋に登ると、道路の向こうに目指すお店の看板が回転していた。あれだ!目標が見えた2人は、さらに加速して階段を駆け下り、歩道を全力疾走、そのままの勢いでスーパーの駐車場に倒れこむように駆け込んだ。
「ゴール!」
「トモ、着いたね!」
「あっは、俺・・・もうダメ・・・」
「私も疲れたあ・・・」
2人とも、笑いが止まらない。額に汗までかいて、このままじゃお店に入れないので、少し休んでいこう。軽食コーナーのベンチに腰掛け、リカには内緒だよ、屋台でアイスクリームを買って2人で食べた。私はバニラとミントのダブル。トモはさらにチョコレートを乗せてトリプル!ああ、今年も夏が来るんだな、私は今年初めてのアイスクリームをほお張りながら、今日何度目かの太陽を仰ぎ見た。

   つづく
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