「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   29 マジックスープ(5)

キッチンの前に並ぶ精鋭2名は、まるで手術を控えた医者と助手のようでもあったが、見た目はそれほど決まっているわけではない。この家にはエプロンがないということなので、リカから汚れてもいいTシャツをもらって、制服の上から重ね着する。
「さて、それでは始めたいと思います。トモくん、準備はいいですか?」
「あい!」
「お、なんだ?トモも作るのか?」
「おう、まかしとけって」
さて、料理は一番時間のかかるものから始めるのが鉄則、今回は当然、ご飯を炊くことから始めよう。
「まずはお米をとがなくちゃね、リカ、ボールとか、ある?」
「無いよ」
「無いの?!」
「この鍋とかじゃダメかな」
「うん、じゃあ鍋でやろうかな。トモ、お米研いだことある?」
「ないよ」
「ん、じゃあ教えてあげる。お米はね、まず計量カップでしっかり計る、これが大事なのね。」
「計量カップ・・・それも無いなあ」
「無いの?炊飯器買ったときに付いてこなかった?」
「だって炊飯器買ってないもん」
「炊飯器ないの?!」「うん」
盲点だった・・・。確かに、鍋だの電子レンジだの一通りの調理器具は揃っていたから、基本的なものは何でもあると思い込んでいたんだけど。
「・・・仕方ない、鍋で炊くか」
「あれ?ご飯って、鍋でも炊けるの?」
「じゃあ昔の人は、どうやってご飯炊いてたのよ・・・」
「あ、そっか・・・」
まずはお米を研ぐ。計量カップはないというので、マグカップで代用。しっかり1合が計れるわけじゃないけど、鍋で炊くなら、それは関係ないから。
まずは2、3回、お米をすすぐように洗う。それから本格的に研ぐんだけど、ここからはトモにやってもらおうかな。
「手のひらでね、押すようにお米とお米をこすりあわせるの。ギュッギュッって音がするように」
「こんな感じかな」
「うん、そうね、うまいうまい」
お米が研げたら、本当は少し水を切った方がいいんだけど、今日は時間もないから、いきなり水に浸す。お米がカップ2杯で、水はそれより少し多いくらいの割合。
「トモ、お水"2杯とちょっと"入れて」
「ちょっとってどのくらい?」
「ちょっとはちょっとよ」
トモはなんだか不可解な顔をしている。無理もないか。私だって、説明しろって言われたらできないだろうなあ。
さ、次はゆで卵。卵が浸るくらいに水を入れて火にかける。ん、ちょうどいいぞ、ドレッシング用に買ってきた酢を少々。
「リカ、ちょっと手伝って」
「あたしも?」
「この卵ね、お湯が沸くまでゆっくり転がしてて。あんまり強くやると割れちゃうからね」
「あーい」
さて、じゃあいよいよ、サラダを作ろうか。早めに作って冷やしておくとおいしいからね。
「トモ、サラダ作るよ」
声をかけると、トモは水に浸したお米を見つめていた。
「何してんの?」
「うん、なんかね、お米からプチプチ音がするんだ」
「?」
近づいてみると、確かに音がする。へえ、今までこんなこと気付かなかった。
「なあ、米って、どうして水に浸すんだ?」
「うん、浸してる間に、お米が水を吸ってやわらかくなるんだけど、じゃあこれって、水を吸ってる音なのかなあ。ねえ、リカも聞いてみて、おもしろい音がするよ」
「私ただいま、ゆで卵製作中につき、話しかけないでください・・・」
「あっそ・・・」
「なあ、そんなことより、サラダサラダ!」
「あ、うん、そうね」
えっと、サラダの材料は、レタス、トマト、リンゴ、クレソン、ゆで卵。
「じゃあトモ、レタスからいってみようか」
「了解!」
「レタスは、食べやすい大きさに手でちぎって、水に浸すの」
「手でちぎるの?」
「そう、包丁で切ると切り口が伸びちゃっておいしくないのね」
「へえー」
次はトマト、トマトはとにかく包丁が大事。切れ味が鈍ってると、すぐに潰れちゃうから。さあ、リカの家の包丁は大丈夫かな。
「リカ、包丁どこ?いっちばん切れるやつ」
「あ、ウチ、包丁無い・・・」
「え?!」
「悪いな、ほらあたし、料理しないから」
「包丁がなくて、どうやってトマト切るのよ!」
「知らないよそんなこと、まるごとかじればいいんじゃない?」
「・・・・・・」
これは参った・・・。ちょっとまて、ボールが無い、炊飯器がない、これならまだなんとかなるけど、包丁がない?!この先料理できる?お味噌汁は、ワカメ、お豆腐、ネギ・・・。魚は平気、あとは、リンゴ・・・ウサギだあ!
「・・・トモ、ゴメン。包丁がないとウサギは無理ね・・・」
「そんなあ・・・」
「うん、残念だけど・・・ねえリカ、何か包丁の代わりになるようなものない?カミソリとか、カッターナイフとか、ハサミでもいいんだけど・・・」
「うーん・・・無い・・・かな」
さあ、どうする。考えろ。部屋を見渡して、何か使えそうなもの。私のカバン、筆箱、カッターナイフは・・・無いか。あとは、ブラシ、手鏡、生徒手帳、あっ!
「ん、どうしたマシロ」
「ひょっとしたらこれ、使えるかも」
私はカバンのポケットを探り、小さなケースを取り出した。
「何それ?」
「どうだ、携帯裁縫セット」
「へえ、そんなのもってるんだ」
「さっすが女の子、リカは持ってないのか?」
「うるせえよ」
セットの中身、小形のハサミ、糸、針、ボタン。さあ、これで何ができる?でも、少しは光が見えてきたかも。
「・・・・・・」
「マシロ、どうした?」
「今考えてるの!少し静かにしてて」
「はい・・・」
「・・・リカ、このレンジ、オーブンも使えるよね」
「しばらく使ってないけどな」
「・・・トモ、リンゴ、ウサギならなんでもいい?」
「あ、うん、それはもう」
よし、ちょっと不安だけど、やってみるか!
「で、マシロ、どうするんだ?」

   つづく
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