「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   30 マジックスープ(6)

大幅な路線変更。でも、嘆いてばかりはいられないぞ。
まず、コーヒースプーンで、リンゴの芯をくりぬく。皮は針でつついて、いくつか穴をあける。
くりぬいた穴の中に、砂糖とバターを入れ、オーブンに入れて1時間。
「リカ、ゆで卵、もういいでしょ」
「あ、ああ」
「トモ、クレソンも手でちぎって、できたら冷蔵庫に入れて」
「あい!」
「さ、次、ご飯!」
充分に浸したお米を火にかける。沸騰するまでは強火。はじめチョロチョロとか言ってるから間違いやすいんだけど、火はだんだん弱くしていくんだよ。
「へえ、俺こうやってご飯炊くの初めてだよ」
「トモ、絶対フタ取っちゃだめだからね!」
「あ、うん・・・」
「なあ、トモ・・・」
「ん?」
「マシロってさ、なんか料理になると人変わらないか?」
「リカも気付いた?俺もさあ、買い物行ってるときから、どうもおかしいなあとは思ってたんだよね・・・」
「はいそこ!無駄話してない!」
「はい!」「すいませんでした!」
「リカ、箸とか、茶碗とか用意してくれる。できたらすぐ持って行くから」
「あ、はい・・・」
「リカ、やばいぞ・・・」
「トモ、黙ってろ・・・」
「ん?その苦笑いは・・・もしかして!」
「はい、ご推察のとおりで・・・」
「・・・まったく、何にもないじゃない!今までどうやってご飯食べてきたのよ」
「箸はなあ、コンビニでいっつも貰えるから・・・」
もう付き合ってられない、次行く。ご飯は沸騰したら、火を細めて水気がなくなるまで炊く。
魚は簡単、ガスコンロに付いてるグリルに放りこんで火にかけるだけ。
さあ、次はお味噌汁だ。
ワカメは乾燥カットワカメだから切る必要なし、よかったあ。問題はネギとお豆腐ね。
小形ハサミの先をコンロであぶって消毒する。水で冷やして、ネギを端からカットしてゆく。
サク、サク、シャキ、シャキ・・・
「うあ・・・リカ、ちょっと交代。目が痛くてもうダメ・・・」
「なんだよ、だらしねえなあ」
シャキ、シャキ、サク、サク・・・
「トモ、ちょっと代われ、おまえサングラスしてるから平気だよな」
「おいおい、まだマシロの半分も切ってないぞ」
シャキ、シャキ、ジャキッ!
「これは無理だ。マシロ、パス!」
「トモ、三切れしか切ってないじゃない!」
「こんなときメガネって役にたたないのな・・・」
「そうなのよ、リカに言ってやってよ」
結局、ネギ1本切るのに、三往復くらい交代したかもしれない。切れないもので切っているから、余計目が痛い。しかも切り終わってから気付いたんだけど、お味噌汁ならこんなにネギは切らなくてもよかったんじゃ・・・今さらそんなこと言えないけど・・・
さあ、次はお豆腐。
「トモ、いいものあげる。ちょっと手だして」
「こうか?」
差し出されたトモの両手に、豆腐を乗せる。
「こんなものもらっても・・・」
「落とさないようにしっかり持っててね」
そしてここで、もう一つの秘密兵器、裁縫セットの"糸"登場。これを両手でピンと張って、お豆腐の中に沈めていく。
「なるほど、包丁の代わりか」
「マシロ、くすぐったいよ」
「トモ、笑っちゃダメ!お豆腐落ちちゃう!」
さて、ここで休憩、今回のお味噌汁は火がとおるまで時間がかかるものがないから、最後に仕上げる。
炊けたご飯は火から降ろして10分くらい蒸らす。リンゴは、まだ加熱中ね。
「トモ、ドレッシング作って」
「ん、シェイクだな、まかしとけ!」
空いたビンにサラダ油とお酢を3:1で入れてフタをする。トモに預けたら、猛スピードでシェイクが始まった。
「リカ、おむすび作るよ、手伝って」
「おむすび?」
「うん、お茶碗も箸もないなら、おむすびがいいかなって」
「ああ、なるほどね」
おむすびが6個できあがる。焼き上がった鮭の身をほぐして、とりあえず3個の中に詰める。あとの3個は、もう一手間。
「リカ、お酒、あったよね」
「あ、そりゃもう、各種取り揃えてございますが」
さっすが、この部分は揃ってるのね・・・。鍋にお酒を少し張って、味噌、砂糖、それから、さっきの多すぎたネギを入れる。
「マシロ、今度は何作るんだ?」
「うん、焼きおむすび。リカ、それはいいんだけどさ、そろそろトモ、止めてあげてくれない・・・かわいそうだから・・・」
「は?」
私が指差すその先で、トモが"地獄のパンクロッカー"みたいな形相で、ブレイクダンスしながら、まだドレッシングをシェイクしていた。泡立ちすぎてマヨネーズにでもなっちゃいそうな勢いで。
2人で思わず吹き出すと、その声でようやくトモが気付いた。白く濁ったドレッシングを眺めながら、いたく満足気だ。
さて、出来上がった味噌タレを、おむすびの表面に塗って、フライパンで焼く。
味噌の焦げる香ばしい匂いが漂い、と、ここで、オーブンからブザーが。取り出すと、さらに甘い香りが混ざりこみ、部屋中を満たしてゆく。
「うわあ、何これ」
「へっへー、どう?焼きリンゴ、おいしそうでしょ」
焼きリンゴの特徴は、柔らかい事。つまりそれは、糸でも切れるってこと。お豆腐と同じ要領で、リンゴを8等分に切り分ける。そしてもう一つの特徴は、手でも皮がむけること。
くし型に切れたリンゴの皮の部分に、針で山型に線を引く。そして、皮を引っ張ると!
「ウサギだ!」
「どうだ!まいったか!」
ハサミで耳の形を整えて、寝てしまっている耳の下に、レーズンを一粒挟んで持ち上げる。
オーブン皿に溜まった煮汁は、少しワインを加えて、煮詰めてソースにする。
さあ、ラストスパート、お味噌汁だ。お湯を沸かして、ワカメ、お豆腐の順番に。別に煮る必要はないので、温まったくらいで、味噌を溶かす。そしてネギを入れて、一煮立ちしたら・・・というのが通常の作り方なんだけど、ここからがちょっとマジック。
「リカ、もうできるよ、片付けて準備して」
「トモ、サラダ大丈夫?もう盛り付けていいよ」
普通、お味噌汁は煮立たせると風味が飛ぶなんていうけど、私の場合は関係ない。まず半分だけ味噌を溶かして、この時点でお豆腐を取り出してしまう。先にお椀、今日は無いのでマグカップに入れる。鍋の中には、ワカメだけ。ここで強火に切り替えて、一気に煮立たせる。思いきり煮立ったあたりで、残りの味噌を溶かして、ネギを入れ、煮立ったまま、カップへ注ぎ込む。
さあ、できた。食卓へ運ぼう!

   つづく
前へ インデックスへ戻る 次へ