「Sweet Lovesongs on LIPSTICK」  〜 Chapter1 真白編 〜

   7 エビ天のしっぽ(4)

「リカ〜、自己紹介が進んでないぞお」2人で盛り上がってしまって、トモが不満にしている。気が付けば、早くも2本目のビールに手を伸ばしていた。
「トモ、ちょっとペース早いぞ、これはあたしが没収」
「ああ、何するんだよ、夜まで飲まないって言ったくせに・・・」言いながら、すばやく3本目に手を出そうとしたが、「おっとお」一歩遅く、再びリカに没収された。
「これはマシロの分だっていっただろ、自分で言ったんじゃないか」
リカが器用に片手でプルタブを開け、私の前に、口から泡を噴き出しているビールが差し出された。
「マシロこぼれる!」「?!」
とっさに私は、こぼれる泡を、口で受け止めていた。
「いえ〜い、これで共犯だな。いけないんだぞ〜、高校生がビール」リカが嬉しそうに親指を立てた。
「もういいよ・・・また持ってくるから・・・」トモが立ち上がり、
「トモ、あと1本だけだぞ」リカが釘をさす。
「私、ホントお酒は・・・」
「いやあ残念、もう口つけちゃったからねえ、そのビールはマシロ、あなたのものです。全部飲むまで、帰れませんよお〜」
「そんな・・・」
「ほいっ、お待たせ!」トモが新しいビールを持って戻ってきた。
「じゃあ、とりあえず、乾杯といきますか! ほら、マシロも持って!」
「私ダメだってば・・・」
「それでは、マシロとの出会いを祝して・・・で、いいのかな?」
「いい、いい、早く早く!」
「じゃあ、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
「カンパーイ・・・」
「ぷはあっ、うまいねえ〜」
「で、ほら、リカ、自己紹介が進んでないってば!」
「ん?ああそうか、でもなんか、もうどうでもいいな」
「うん、でも私は聞きたいな、リカのこと。ねえ、リカは今、何してんの?」
「あたしか? あたしはフリーターってやつだな。いつもは線路向こうのガソリンスタンドで働いてる」
「ふ〜ん、ガソリンスタンドかあ、ねえ、楽しい?」
「それほど楽しいってわけじゃないけど、ガッコに行ってるよりはよっぽどマシだな」
「そっかあ・・・私は、学校も楽しいけどなあ・・・」
「うん、それならいいんだよ、どんどん学校に通ってくれればな」
「それで、じゃあ今度はトモ! ねえ、トモ、学校は?」
「俺?う〜ん、行ってるようで・・・でも、やっぱり行ってないかもしれない・・・」
「?」
「あっはは、トモってさ、いっつもこんな感じなんだよね」
「ねえ、そもそも、トモっていくつなの?」
「おれ、えと・・・14、かな」
「14?! 中学生じゃない!」「そだよ」
「ダメよ、中学生は学校行かなきゃ」
「うん、だから、行ってるような・・・気もするんだよね・・・」
「あはは、無理無理、あたしもよく知らないんだけどさ、トモって、この部分、触れられるの嫌がるんだよね。いつもこうやってはぐらかされちゃうんだ。結局こいつ、学校には行ってないんだよね。ほとんど一日中ここにいて、ほとんど一日中・・・」
「ほとんど一日中・・・何?」
「一日中、酔っ払ってるな」「あっはは、ダメ中学生だな」
2人はおなかを抱えてひっくり返っているが、これは笑い事なんだろうか。そんな無茶苦茶な中学生が・・・
「そんな・・・ダメだよ。トモ、お酒はダメ。そんな若い頃から飲んでるとね、いつか絶対、体壊しちゃうんだよ・・・」
「ん? 俺か、う〜ん、もう手遅れじゃないかな」
「トモの場合、体よりも先に、頭が壊れてるもんな」
「茶化さないで!」
「っと、なんだよ、突然・・・」
なんでこの人たちは、こんな大事なことに笑って・・・そんなのダメ、絶対認めない。
「ねえトモ、お酒ってね、すごく怖いんだよ。どんな元気な人でもね、無理するとすぐに中毒になって、ホントに壊れちゃうんだから。特にトモみたいに、若い人はダメ」
「うん・・・」
「マシロ、もうその辺でいいだろ、トモだってわかってるんだから、な?」
「でも大事なことなんだよ、リカだってそう、私たちだって、お酒はダメなんだからね」
小さくうなだれるトモは、小さな体が、ますます小さく見えた。おもちゃを取り上げられた子供のように、切なげに、ただ、汗をかいたビールの缶を見つめている。
もしかして、言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。でも、そんなこと言ったって、ダメなものはダメなんだ。
「・・・うん・・・マシロの言ってること、すごくわかる・・・」
「だったら・・・」
「でも・・・」
「・・・?」
「・・・俺、何ていうのかな・・・、うまく言えないけどさ、酒がないのもダメなんだ。このままじゃ、絶対体によくない・・・それはわかってるけど、でもやっぱ俺、酒が無いと生きていけない。俺にとっては、すごく、必要なんだ・・・、お酒も、空気も、太陽も、リカも・・・どれが一番かなんて比べられないくらい、みんな必要なんだ・・・」
この子は何を言ってるのだろう。ずいぶん飛びぬけたこと、でもそれは、とても冗談には聞こえなかった。いつもお店のお客さんが言ってるような、酔っ払いのたわ言とは明らかに違って、どこが違うかといえば、目が・・・、目が、本気だった。
「トモ、なんかツマミ買ってこいよ。な、ビールだけじゃ飲みにくいだろ?」
「・・・うん」
「あたしちょっと、マシロに話があるから」
「うん・・・よし、じゃあちょっと行ってくるね!」
トモが、少し無理して笑顔を作った。お酒のせいか、それとも、少しふらついて、鼻をすすりながら天井を見上げる。
「ツマミ、なんでもいいか?」
「ああ、好きなもの買って来い」

   つづく
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